贅沢な名前だねぇ、今日からお前は繭太郎だ!

「あ?なんだ、アンタら………ああ、いい。言わなくていいぞ、カルデアだな」
「そう、だけど……どうしてわかるんですか?」
「未来視で見えた。……ああ、俺はバロールだ。巨人の王バロール。お前もサーヴァントと契約してる奴ならクー・フーリン、って聞いたことあるだろ?そいつの曽祖父だ」
「私は……ナディアって言うの。こっちの、バロールに助けてもらって……」
「……自己紹介はそこまでだ、『出てくる』ぞ」

そうバロールが話した直後、繭がバキバキと音を立てて割れ……

現れたのは、カルデアにも在住しているメドゥーサによく似た、長身の男性が倒れ込んでいる姿であった。

「………メドゥーサ……?なのかな」
『ライダークラスの霊基グラフには未該当、ゴルゴーン、ランサー霊基共に一致率は一桁以下……先輩、恐らくそこの方がメドゥーサさんである可能性はほぼないかと』
「だろうな。コイツは魔眼を持っちゃいねぇ。ギリシャ屈指の女怪ゴルゴーンと言ったら見るもの見たものを石にする魔眼がないとな」
「となると……いったい何方なのでしょうね。この御仁は」

そうこうしていると、男が目を覚まして辺りを見渡す。どうやら正確にこちらを認識したようで……

「あの……ここは?あなた方は、いったい」
「ああ、気づいた?私たちは─────」

「なるほど。藤丸さん、バプロディカさん、バロール殿、ナディアさん、と……。俺の名前はクリュサオル。ギリシャのメドゥーサの息子です」
『メドゥーサさんの……ああ、だから見た目が似ているんですね!』
「カルデアには母がいるのですか?それはそれは。……えっと……藤丸さん、あなたをマスター、とお呼びしても?」
「ん?大丈夫!問題ないよ!」

「クリュサオルは、どうして繭の中にいたのか覚えてないの?」
「そう、なんです。俺は確かにこの特異点に召喚されて……そしたら、何か大きな……人のような物が衝突してきて……気付いたら、このようなことに」
「ナディアさん、あなたはサーヴァントではないようですが……何故に?よければ私に話してくださいますか?」
「はい、バプロディカさん。……私は、そこのバロールと聖杯戦争に参加してたのが、気付いたらこんなところに転移させられちゃって……何がなんだかわからなくて、眠っちゃいそうになった時にバロールに助けてもらったんです」
「んで、その俺ことバロールは気づいたらこの特異点にいたな。ああ、俺はナディアの世界にいるサーヴァントの方の俺じゃねぇぞ?まあ裏技でその世界の俺と同期して記憶も何もかもインストールしたが……正確にはナディア本来の使い魔じゃあない」

なるほど、確かにナディアとバロールの二人はそれ相応の信頼感が築かれており、主従であると言われたら確かにそうだと納得する程である。

『……眠る、とはどういうことなのですか?この特異点は人に対してそういうものが働くと?』
「あー……どう説明したもんかねぇ……取り敢えず、こっちだ。見たほうが早いだろ」

バロールに連れられるまま、砂浜を出て複数の建物が建っている開けた場所に出る。そこの建物はあらゆる時代、あらゆる地域のもののように見えて……

「……これは、何?この人たち、どうしたの?」
「……大丈夫。脈はあります。この方々は亡くなってはおられないかと。ただ、眠っているだけで」
「……駄目ですわ、マスター。試しに魔術を使ってみましたが起きる気配がありません」
「起こそうとしても起きないよ。私もバロールも必死に起こそうとしたけれど……これは何かしらの宝具やスキル、あるいは権能級の業なんだって」
『はいはーい、今こちらで軽ーくここの周囲一帯の人達を解析してみましたー!……どうやら、ここの人たちは人種、時代、さらには体質までもが十人十色。ありとあらゆる時代や地域から集められたようです。……それと、確かに彼らは強烈な精神干渉を受けているようで』

この特異点に存在する殆どの人間が、そのような状況下にあるらしい。さらに、驚きの事実はまだ存在し。

『それと、軽くこの特異点を解析したところ、分かったことが一つ。………この特異点は「広い」んです。例えばオルレアンではフランスのみでした。しかし、これは一国に収まらないほど広すぎる。しかも、これは物理的な広さだけでなく─────』
「はぁい、そこまで、ですよ。私はまだ教えるわけにはいかないので、口を閉じてくださぁい」

まだだめよ、と諭すように。少女がふわりと藤丸の前に現れ、その唇を人差し指で閉ざす

「こんにちは、カルデアのマスターさん。……良い顔つきですね!私はキュベレー。この特異点の作り主だとお考えください」
『キュベ、レー……?……ハッ、先輩!今すぐ警戒態勢を取ってください!その方はサーヴァントではありません!本物の神です!』
「おー、よくわかりましたねー。サーヴァントの霊基に偽装していたのですけど。……貴方達風に言わせてもらえば、クラス:エンシェントゴッド/ライダー、なんですかね?まあ、とにかく。それが私です」

そう答えた瞬間、バプロディカが生み出した数多の光球が、バロールの振るう槍が、クリュサオルの携えた剣がキュベレーを取り囲む。……それは儚い抵抗だろうと、しないままでは許されないから。

「まあ、全く。……そんなに警戒なさらないで。私は少なくともあなた方に危害を与えるつもりはありませんから。この場では大人しく引き下がります。ああ、それと、そこのシスター?」
「……私、でしょうか。一体どうされました?」
「久しぶりですね。負け犬さんになっちゃいましたか。人間に下される気分はどうですか?」
「まあ、面白いことを仰るのですね?私は、人間に敗北したことなんて一度もありませんわ?……貴方こそ、このようななんともまあつまらない世界を」
「つまらない……ねぇ?まあ、私の愛で包まれた世界を見ると、貴方はそう思うのかもしれませんが。……帰りますね、マスターさん」

その言葉を最後に、空気に消えるようにキュベレーは去る。最後に「マスターさん、私を倒したいのなら四つの国に目をつけるとよろしいかと」という助言を残して。

「四つの国……ってなにかな?私はレイシフトしたばかりだから、わからないけど……」
「あー……アレ、だろ。ほらアレ」

バロールが映し出したホログラムに、広大な大陸のような世界に建つ四つの巨大な国が見える。

「………キュベレーに話を聞くのと同時に、俺が調べたこの世界の性質と照合させる実験を行った。……簡単に言うと、だ。この世界の殆ど全てはキュベレーに掌握されているが、この円……四つの国は支配されていない。それぞれ別の支配者が居ると考えられる。さらに言うと、念じるだけで転移が出来るシステムだな」
「それは……人の身でない俺が言うのもなんですが、ガバガバではないですか?侵入者を許すと言うことに……」
「私とバロールで調べた限り、支配者はそれぞれ並大抵のサーヴァントだと逆に蹂躙し尽くす程の力を持つ存在だってわかったの。神霊サーヴァントも、いるかもしれないって」
「なるほど。私たちの当面の目的は、そのような国にとりあえずは突入をしてみよう、ということですね。……単純明快といえば、そうですけれど」

  • 最終更新:2020-05-25 00:09:10

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