Space Grail・部屋からの脱出

人体で最も打たれ強いパーツ、それは背面だ。
このことは、人間の防御姿勢が「体を丸めて背中を張り出す」ものであることからも明らかだろう。
この強固な城門、背でもって相手を叩く。数多に武術あれど、単純な衝撃という点で並ぶものはなし。

震脚、闖歩ーー貼山靠!!

ふっ、と吐く息とともに繰り出した渾身の一撃は、しかし電子ロックの扉を大きく軋ませたに過ぎなかった。
だめかぁ、と、うなだれる僕に、背後から拍手が贈られる。
ベッドに悠然と腰掛けた軍服の男が、どこか楽しげに手を打ち鳴らしていた。

「見事な一撃、余は驚いたぞ。しかし、今ので無事とは。聖杯戦争の開始とともに、この船の構成自体も些か書き換えられていると見える」

「あー、もー!セイバーも手伝ってよ!だいたい、君のせいで苦労しているんじゃない。何でセイバークラスのくせしてステータスが最低ランクなのさ。こう、少年漫画みたいに扉を剣でスパッと切り裂いたりできないの?」

「『あなた』から『君』か。順調に評価が下がってきたな。だが、その無礼を許そう。事実であるからな。ただし、扉を切り裂くこと、それ自体は皇帝である余にはたやすいぞ」

「なら・・・・・・」

「しかし、皇帝の名においてそれは拒否する。余の剣は物を破壊するために振るわれることはない」

「言ってるばあいかー!」

実際、セイバーの与太話にもすがりたくなるくらい、本当にお手上げだった。
部屋全体を構成する素材が、本来の鋼化カーボンファイバーから恐ろしく頑丈な何かにそっくり入れ替わっているみたいだ。
僕の力では、どんな手段を用いても破壊することができなかった。

まさか、はじめての戦いで部屋から出ることも叶わず、やられるのを待つことになるとは・・・・・・・
拝啓、お父様、お母様。
お元気でしょうか。僕はちょっともうダメかもしれません・・・・・・

◆◆◆◆◆◆

「一度落ち着き給えよ。余もマスターがここで脱落することは望んでおらぬ。策があるのだ」

しばらく扉を開けようと躍起になっていた僕をベッドに座らせると、セイバーは紅茶を淹れてくれた。
暴れまわって喉が乾いていた僕のために、少し冷ましてくれていたらしい。
すうっと喉に落ちるのと同時に、華やかな香りが鼻腔の中に広がった。

「策?」

「そう、策だ。まず純然たる事実として、余は力仕事を好まぬ。よって、マスターに開けられぬ扉を余が開こうとするのは現実的ではない。ならどうするか?」
 
「どうするかって・・・・・・どうしようもないじゃない。何もできない」

「うむ、流石は余のマスターだ。筋がいいな。その通り。何もできない。故に、我々は何もせず待っておればよい」

「そんなこと言って・・・・・・!放送の人、たぶんセレーネさんだった。今も助けを求めているんだとしたら――」

ごうん、という鈍い音。同時に、扉が大きく歪んだ。何か巨大なものが向こう側にいて、圧力をかけているみたいだ。
僕は驚いてセイバーを見た。セイバーは一切動揺していなかった。
涼し気な顔をしながら喋り続ける。

「最終的に一人に至る戦争である。必然、我々も誰かと戦うことになるだろう。そして、その誰かは間違いなく『そこ』を開けて入ってくる。我々はそいつが開けてくれるのを待っているだけで良い。――思ったよりも早かったであるな。来るぞ、マスター」

扉が弾け飛び、にゅっと黄金の長い鼻が伸びてきた。

プオオォオオオ!

巨大な象が、僕たちの部屋の入り口で嘶いた。

  • 最終更新:2018-10-02 13:52:30

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