Space Grail・はじまりの朝

ベッド脇の機械から送られてくる微弱な電気パルスで、僕は目を覚ました。

「うーむ、む、む・・・・・・む?」

唸りながらパルス装置のスイッチを切る。それから液晶モニターを操作して、「家守乃蒼(かもりのあ)」の活動状態を「就寝中」から「活動中」に変更した。
宇宙探査船NOAHに乗り込んでから7日目。初めて起床プログラムを使ってみたけれど、もう二度と使うことはないだろう。
確かに頭は普段ないほど冴えている。最新鋭の機種なだけあって、効果はてきめんだ。
けど、電気が流れる瞬間、ぴくりと体が飛び跳ねるのが恥ずかしいし、自分がびっくり箱の中身になったみたいな感じでたまらなく嫌だ。
大きく伸びをしてから(遠心力で擬似的に重力が作られているため、体が浮き上がる心配はなかった)時計に目をやる。協定世界時で朝の5時。
今回集められた「専門家」の中でも、特にオブザーバーとしての性質が強い僕がこの時間に起きる必要性は、実のところ全くない。
ないのだけれど・・・・・・ほら、僕だって一応女の子であるからにして、鍛錬のあとにシャワーを浴びたりとか、最低限の身だしなみだったりとか、何かと時間がかかるのだ。

結果として、これはいい方に働いた。朝ご飯を食べている最中に、ベルの音が鼓膜を破らんばかりに鳴り響いたからだ。
驚きのあまり「うわっ」とも「ひゃあ」ともつかない奇妙な音が漏れたが、寝床から転がり落ちる醜態だけはさらさずに済んだ。

「なに!?なに!?どうしたの!?」

トラブルでも起こったのだろうか。
壁を一枚隔てた向こうが、いまだ生命が発見されていない死の世界であることを思い出してしまう。顔から血の気が引いていく。
え、こんなところで人生終わっちゃうの?まだ道場の師匠も倒してないのに!
トレーを片手に右往左往していると、唐突に静けさが戻った。

同時にスピーカーからザリザリとした音。
雑音でしかなかったそれは、音のピッチを上げたり下げたりしながら、少しずつ人間の声になっていった。

「・・・・・・てくれ・・・・・・助けてくれ!」

若い男性の声だ。動揺しているのか、つっかえたり、どもったりしながら言葉を紡ぐ。

「助けてくれ、助けてくれ、助けてくれ!違う、こ、こんなはずじゃなかったんだ・・・・・・。オレがしたのはただ、HALにほんの少し入り込んで・・・・・・『月への道』を開いただけなんだ!くそ、なんで!オレの令呪は機能しないんだあああ!!」

そのあともしばらく「通信」は続いていたけれど、僕にはそれに気を払う余裕がなかった。

腕に焼き付くような痛み。
思わず取り落としたトレーが、突如発生した強烈な光の中に消えた。
うめき声をあげてとっさに目をつぶる。

しばらくして再び瞼を持ち上げると、いつの間にか眼前に男が立っていた。
深い緑色の軍服に身を包み、蛇が巻き付いた意匠の杖を携えたそいつと目が合う。するとそいつは、やおら口を開いた。
優し気な、落ち着き払った声だった。

「サーヴァント、セイバー。呼びかけに応じ参上した。そなたが余のマスターであるか?」

人生に転機があるとしたら、おそらくこの瞬間だろう。
ここから動き始めたのだ。何もかも。
僕はこの日、運命に出会った。

  • 最終更新:2018-10-02 13:52:49

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード