遭遇:親方、空から青年が

「いやー、冷えた身体には羹(あつもの)が一番だよねー」

そう言いながら、銀河は汁椀によそった豚汁をすすりつつ飯盒に箸を突っ込んで白米を食らう。

「《…………何で、私もなんだ?というか、何故変身を解かない?》」

「んー?」

白米の盛られた茶碗を持ちながら、困惑した表情で自身のマスターに問いかけるキャスター。

「もぐもぐ………………いやぁ、解き方わかんなくってさ、もうしばらくはこのまんまで良いかなって!」

白米を飲み込み、能天気に大笑いするマスターに、思わずずっこけそうになるがなんとか持ち直すキャスター。

「それにさ、いくら身体が寝ず食べずでへいきへっちゃらだとしても、心はそうじゃないでしょ?」

だったら食べなきゃ、とにこやかに微笑み銀河は豚汁を口に掻っ込んだ。

「(――――――――変なマスターだ)」

サーヴァントは食事も睡眠も必要としない、殆ど意味は無いと言うのに。
心の中でそう呟きながら、キャスターは豚汁に口をつける。

――――――――美味い。
田舎味噌の風味が口に広がり、豚肉の旨みがあとにつづき、よく味の染みたゴボウや人参がまた別な味わいをもたらす。
自身の生きていた時代には口にすることもなかった料理を口にする。
――――――――もう、かの唯一神を信仰する資格は自分にないのだから。

>>>

「ふぃー、食った食った……」

「《寝て食ったら牛になるぞ》」

腹をさすりながら、テントの中でゴロ寝する銀河。

「いーじゃん『寝る子は育つ』って言うし」

「《今の肉体は15歳あたりだから、まぁ……育つと言えば育つが………………ってそうじゃなくて》」

「わーかってるよぉ、他の陣営のことでしょ?」

「《わかっているなら、何故行動しない》」

「いや『行動しない』んじゃないんだ、どっちかと言えば『行動できない』って感じかな」

「《ほう?》」
「けど、その前に一つ良いかな」

おもむろに起き上がり、神妙な顔で言葉を紡ごうとするマスターに思わずキャスターは居ずまいを正す。

「《何だ?マスター》」











「トイレ行きたい!」

盛大にキャスターがずっこけた。

「《…………行けば良いじゃないか》」

「ありがと!いやーさっきからションベンが漏れそうでさ!」

「《女の子がションベンとか言うんじゃありません》」

スタコラと、銀河と霊体化したキャスターがトイレの方へと駆けていった。

>>>

「あー、危なかったー」

銀河がハンカチで手を拭いながら建物から出てくる。

「《まったく…………お前は不用心にも程がある、もし他陣営に出くわしたらどうする?》」

「んー……多分他と出くわすのはそうそう無いと思うし、大丈夫なんじゃない?」
そう言う銀河の顔に、枯れ葉が風に巻き上げられて『ひらり』と飛んでくる。
「なんか、風強いなぁ」
「《…………マスター、ピースの準備だ》」

「へ?」

枯れ葉を浮かす風が徐々に強くなり、銀河の視界……というより顔面が枯れ葉で殆ど塞がれる。

「アバババババ!ア゛っ、ちょっ、前ッ……見えな――――――へべしゅ!!」

思わずスッ転び、キャスターになんとか助け起こされて起き上がる。
しかし、視界には未だ大量の枯れ葉。枯れ葉。枯れ葉。
枯れ葉のブラインドがキャスター陣営の視覚を覆い、風切音と枯れ葉同士のこすれ合う音が聴覚を埋め尽くす。

視界が晴れたとき、巻き上げられ地面に落ちる大量の枯れ葉の中心にふわりとした癖毛の青年が立っていた。

  • 最終更新:2019-10-12 14:30:31

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