行動:山へ向かって

「なるほどな…大体わかった」
「よく理解できましたね…まぁ視聴者達からすれば娯楽といっても、願いが叶うのは本当ですから自分も本気でやりますけどね」
「当然だ。勝てる戦は確実に勝たせてもらう」

来栖市で行われる聖杯大会のマニュアルをペラペラとめくるアーチャーを横目に見る。
一通り読み終えて満足したらしく京郎に向けてポイと放り投げる。

「それで、どうしますか?魔力供給は今のところ大丈夫だけど小聖杯とかは…」
「今は拠点を固めるほうが先だ。お前はどこを拠点としているんだ?」
「ホテル」
「今は捨てろ」

そうばっさりと言い切る彼女に流石に京郎はぽかんと口を開ける。
そんな己の主に目もくれずアーチャーは解説していく。

「とりあえず情報はこの本で手に入った。人員は今は望めない。有能な仲間はどうだろうな」
「ええとそれはひとまず置いといて、残るは速さですよね。あ、という事はもう拠点を移すんです?」

アーチャーは首肯した。そして街の地図を広げると北西の山を指差した。

「私はアーチャーだ。武器を最大限に活かすなら上を取るべきだし、霊地なら戦闘にも支障は出にくいだろう」
「そういやアーチャーの初陣って山の上からの狙い撃ちでしたね」
「ははは、まだ青臭かった頃の武勇すら後世に残っているとはな。流石は私だ」

ドヤっという効果音が付きそうな表情を自慢げに浮かべるアーチャー。基本は無愛想だがどうやら人間らしい一面も持ち合わせているらしい。
改めて真名通りの英霊らしい。

「でも、山なら南西の方がいいんじゃ?」
「確かに山だが広い事だけが良いとは限らない。その分伏兵が潜んでいる可能性も高くなる。弾が届く範囲で今は十分だ」
「なるほど…」

指揮官としての観察眼だと漠然と京郎は思った。歴史に名を轟かすだけあってこの常識が通じない聖杯大会においても考えは的確だ。

「ならさっさと行くぞ。他のサーヴァントに陣取られる前にな」
「はーい。じゃあタクシー捕まえるんで待って下さいねー」

道路に向かって歩いていく京郎。
しかし一つの違和感が胸をよぎった。

「聖杯から大会の知識とか貰わなかったのかなぁ…?」

聖杯からはサーヴァント達は、円滑に殺し合いをする為に基本的に召喚された時代の知識を付与される。
その量や質に多少の強弱はあれど、今回のような大会ならばその大会の知識が与えられるはずである。
だがアーチャーはスタッフ用のマニュアルを読み度々質問を投げかけてきた。まるで無知だった。

「…まぁいいか」

真っ当に召喚できたわけでもないし何かしらの齟齬でも発生したのだろう。
まるで自分の携帯端末が不具合を起こした時と変わらぬ気楽さで彼はこの事態を受け止めた。

  • 最終更新:2019-08-14 14:05:45

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