王道問答

「……ふむ。よくぞ、これだけ集まったものよ」
カルデアの一室に集った3人の英雄を眺め、この部屋で1番幼い風貌をした少年は満足そうに頷いた。
漆黒の髪に褐色の肌、エキゾチックな顔立ちをした豪奢な装束を纏う少年。
彼の名はトゥト・アンク・アメン。
少年王ツタンカーメンの幼少期の姿である。
『はーい♪全員集まってるかしら? それじゃあ簡単にルールを説明するわね。
 1.ここでの戦闘は禁止。戦う場合はトレーニングルームに行くこと。
 2.お互いの王道について話し合うこと。
 3.王道に対して優劣は決めないこと。貴方達は全員優れた王よ。その王が敷いた王道に優劣なんてないわ。
 4.ただし、話が盛り上がる程度に比較するのはオーケーよ。後々遺恨を残さないなら好きにやってちょうだい。
 ……以上。この4つのことをちゃんと守ってね?
 そ♪れ♪と♪これは私からの差し入れよ♪
 『喝采せよ、美は全ての民に開かれり(ミュゼ・ド・ルーヴル)』!』

アンクと王達のいる室内に華やかなアナウンスが流れる。
それと同時、花弁と硝子の結晶が舞い、次いで無数の瓶があらわれた。
初代のボジョレーワインがあった。ナポレオンの愛したブランデーがあった。フランスで製造された貴重な美酒が、今この空間に存在していた。
アナウンスの主の名はドミニク・ヴィヴィアン。
開帳された宝具は『喝采せよ、美は全ての民に開かれり(ミュゼ・ド・ルーヴル)』
このカルデアで技術顧問を務める女性であり、キャスターのクラスを冠するサーヴァントである。
「おお、これはこれは! 感謝するぞドミニクちゃん……で、あれば。余(オレ)も少しは振る舞うとするか」
愉しげに言い放ったアンクが無造作に空間に手を入れ……次の瞬間、彼の手の中には熟成されたエールが詰まった壺が入っていた。
「ふむ、これだけあれば十分であろう。
 ではこれより、星見台問答を開始する!」
高らかに宣言する少年王。
その声に誰よりも早く反応したのは━━━━

「まずは自己紹介。Xin chào(ちーす)。黎利っていいまーす。キョーは宜しくね」
青いアオザイ、黒髪を束ね後ろに送り、メガネをする女。その胸は豊満だった

そして次に反応したのが

「救済者(ソーテール)。ラゴスの息子。プトレマイオス1世だ。手土産にコニャックを持ってきたが必要なかったようだな」
髪と瞳の色は砂色。均整のとれた長身、鋭気をみなぎらせた端正な美丈夫。自信と覇気にあふれたファラオが右手に持つ酒瓶に視線を落とす。

「ふむ……黎利に……興味深い名を聞いたな。プトレマイオス……かのラムセス二世と争った王か……ああ。名乗り遅れたな」
プトレマイオスを真っ直ぐに見据えた男は、足元の瓶を一息で半分ほど飲みほし……大仰な口調で名乗りを上げた。
「余(オレ)の名はトゥト・アンク・アメン。またの名を少年王ツタンカーメンである!」

「……………今聞いた限りだと私浮いてない?大丈夫?」
「いや?」
「大丈夫だとは思うが?」
黎利のこぼしに反応する二人。彼女は二人から共通するオリエンタルな雰囲気を感じとり、居心地が悪いのだ
「まあ王道を語るってのが今回の趣旨だけどさ……………私は後でいいかな?貴方達二人の"王道"?ってやつを聞いてみたい」
酒を口に含みつつそう答える黎利。その目は品定めのように二人をじろりと観察している

「黎朝の太祖よ、そう急かすな」
コニャックをテーブルに置き、典雅な所作でブランデーを味わいながらプトレマイオス1世は言う。
「王道を語るならば先達たるファラオからまず御教示願いたいところだが……まず、その先達の知識を訂正させてもらおう」
ほう、と呟きアンクは視線をプトレマイオス1世へ向ける。
砂色の瞳がその視線を受け止める。
「俺はかの神王とは面識を持たん。そもそも、時代が合わん。俺の治世は主上───イスカンダル王から太守を任じられていたところから始まる」

「ふむ……そうか……なるほど……ク、クク……クハハハ! クハハハハ!」
呵呵大笑、既にアルコールが回りきったのかと錯覚するような豪笑がカルデアの一室に響き渡る。
自分達を集めた王の豹変に黎利とプトレマイオスは怪訝な視線を向けた。
「ククク……なに、当世で得た知識ほど当てにならぬものはないと思ったまでよ。許せ、プトレマイオス。何分余(オレ)はそなたとは1000年ほど古い王であるが故、幾分か見誤っておったわ。
 そうであるな。そなたのいうとおり。
 こういうものは先達から語るもの。
 謝罪の代わりに余(オレ)の王道を拝聴する栄誉を与える」
すると紀元前1000年代を生きた古王は、半分ほど残っていたボトルワインを一気に飲み干し。

「余(オレ)の王道とはな。本来言葉で語るものでは無いのだ。
 王とはその背によって民を導くもの。
 民草の最前線に立ち、己が身をもって民と土地を守る。
 それが余(オレ)の王道だ……なに、完遂出来たとは思っておらんがな」

「なるほどね……………そこのmrダンディズムはどうなんです?」
黎利は酒のつまみのチーズを食いながらプトレマイオスに話をフル

「タンディズム……?」
虚をつかれ思わず自分の顔を撫でるプトレマイオス1世。
「まあ良い、赦す。俺の王道だったな。俺の王道は法だ。俺が作り上げた世界での法だ」
彼がエジプト人の宗教と統治者(マケドニア人)らの宗教を統合することを主導してひとつの文化・宗教観を創り出したことを指す。
「俺の法下に生きる者には誰もが幸福を得ることを赦す。そして法の外たる敵手……特に後継者(ディアドコイ)を詐称する愚か者どもには容赦はしない、実に簡単なことだ」
「ああ、あなたのところの王様が死んじゃったあとみんなバラバラになったんだっけ?」
おつまみを食べながら、こともなげに言う黎利にプトレマイオス1世は微笑する。
「我らは征服王イスカンダルという煌めく恒星の周りに集う星だった」
語りながらブランデーをグラスに注ぐ。
「ひとりが野心を抱いても、同格である他の将がそれを阻む。いままで同格であった者の下風におめおめと立てる者は誰もいなかった」

「ふむ、法か……法とな……くくく……なるほど、なるほどな?」
「……笑われるようなことを話したつもりは無いが」
あからさまに不機嫌な態度を見せるプトレマイオスにアンクはつまみのチーズを差し出し答える。
「なに。生まれた時は違えど砂王(ファラオ)の在り方は変わらぬと思っただけよ。そなたは法を敷くことで民を守る、余(オレ)はこの身をもって民を守る。形は違えど、我らの王道の行き着く先は同じではないか?」
アンクの答えに考え込むような顔を見せるプトレマイオス。
その表情に満足気な笑みを浮かべたあと、改めて黎利に向き直る。
「さあ、次はそなたの番だぞ? 黎朝の王よ。そなたの王道を余(オレ)達に見せてみよ」

「そこまで言われたら仕方ないな、Mrパッション」
黎利は酒を一気に煽り二人を目に収めてこういった

「私の王道、それは"偉いやつを殺す"この一点に尽きる」

……………。
「「は?」」
困惑。二人の神王(ファラオ)は奇しくも同タイミングで同じ言葉を口から漏らした
しかしその程度で黎利は動じない。むしろ熱が入ったかのように語り始めた
「まあ、正確に言えば、"偉いやつ"、"偉そうなやつ"、"偉くないのに偉かなってるやつ"が嫌い……………いやむしろ好きだね、こいつらが私の叛のおかげで慌てふためく姿を想像すると実に愉快な気分になるんだ♡……………もともと私は生きていてどこかつまんなかった。剣、政治、宗教、道楽……………色々やってみたんだがどうも身に入らなくてな。その時起きたのが明が我が祖国を支配したという戦争。いや〜初めて聞いた時イラッてしたんだよ。『なんで土地勘もない奴に私たちは支配されなきゃいけないの!?』ってね……………しかも明は世界を全て支配するときた。『なんなんこいつら?』って思った時には舎弟だったグエン連れて叛を起こしていたんだよ♡」
黎利の目はエメラルドグリーンの焔が燃え広がっている

「ほ、ほう……? そなたはどう思う? プトレマイオス?」
「は?」
俺に振るのかよ、と言いたげな顔を浮かべる神王が1人。
振った少年王は少年王で黎利の発言に困惑が隠せなかった。
「なるほどな……時代が違い地域が違えばここまで異なるということか……王道とはまっこと面白きものよな」

「人を殺めるために生まれてきたような女だな」
「はっきり言うではないか」
アンクは率直過ぎる評価に微苦笑する。
プトレマイオス1世は叛逆や解放を良しとする彼女の在り方に理解がないわけではない。実力あっての権威だ。権威あっての実力ではない。力なき覇者が倒されるのは世の摂理である。
しかし、黎利の両眼には、王道を語るとともに嗜虐的な笑いのさざ波が揺れていた。プトレマイオス1世が黎利にたいして全面的な賞賛をためらうのは、勇猛の表現の枠を越える残忍さを感じ取り、生理的な嫌悪感をそそるからである。
「その獣性、粗豪さには王器があるとは認めよう。だがそれは石器時代の王者だ」
「あれぇ~、嫌われちゃったかな~」
猛獣扱いされた黎朝の太祖はにへらっと笑う。
そんな中、王者たちの宴を行っている部屋の扉が開かれる。
「ここですか、美味しいお酒が呑める場所は!」
現れたのは三人の王者と同じくカルデアのサーヴァント。上杉謙信だった。
「私にもお酒ください。あっ!上等なコニャックがあるじゃないですか。ちょうどいい!」
プトレマイオス1世は咄嗟に舌打ちする。
「不識庵!何がちょうど良いだ。誰の赦しを得てタダ酒をたかるつもりだ」
「いいじゃないですか!」
「ここは王道を語らうための酒宴だ。一国の主であったそなたも語ればこの酒を呑ませてやろう」
「いやいや、私はもうそういうのないですから。だからお酒だけください」
雅な盃をプトレマイオス1世の前に差し出す謙信に、他の王たちは毒気を抜かれたように弛緩する。あの女武者はプトレマイオス1世に任せよう、アンクと黎利はプトレマイオス1世に全権委任すると酒宴を再開した。

  • 最終更新:2019-12-03 23:11:15

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