決着 受け継がれる力
「っーーぐっ…」
即座に相手の魔術を解析して再現。相手にも雷撃を当てる。自分が感電しないように防御を張っているのでそれを抜いて電気を通す。
マグダレーナ「かはっ!?」
同属性での反撃に驚くものの腕は離さない。何故だ?私はともかく君はこのままでは死ん.でしまうぞ。
どこまで巫山戯た強さなのかと愚痴でも零しそうになる。全くの同属性で反撃してこちらの方がダメージが大きいって嫌味か!
でも…スルトちゃんなら必ず勝ってくれる。それまでなんとか、こいつをここで抑えるんだ。スルトちゃんを信じて絶対に耐えてみせる。
さあ、根較べといこうじゃない。昔から我慢強さには自信があるのよ。
セイバーとバーサーカーの宝具による炎と光のぶつかり合いは、その余波だけで周囲の岩を溶かしている。しかし形勢はバーサーカーが大きく優勢であった。
セイバー「………相性負け、か…」
威力だけであればそこまでの大差は無い。それこそ気合いでどうにかなるレベルだっただろう。
しかしバーサーカー、スルトの宝具『紅炎の剣(レーヴァテイン)』は強力な神殺しの力を持つ。いかに威力で拮抗していても神に由来する力では時間稼ぎにしかならない。
セイバー「まあ、落とし所としてはこんなものでは無いでしょうか。毘沙門天様」
稼いだ時間で思考する。マスターはどうした?
セイバーはエルシュタイン(の複製体)の性能を高く買っていた。少なくとも彼我の相性差を埋める手を打たない筈がないと思ったのだがマスターからの思念は届かない。
ああ、これは相手のマスターとの戦いで何かがあったんだなと判断する。極小確率だと切り捨てた事象が起こったのだ、と。予想外の展開に口角を釣り上げる。
セイバー「やれやれ…これだから戦というものは…」
面白い…。と呟いた声と共にセイバーは炎の中へと掻き消えた。
セイバーの消滅と同時にアナウンスが流れる。私達の勝ちだった。それと同時に目の前の複製体は攻撃を止め、互いに距離を取った。
マグダレーナ「はぁっ…はぁっ…」
身体中が焼ける様に熱い。いや、実際に焼けている。それでも魔術回路をフル稼働させて何とか命を繋ぐ。対する複製体はと言うと全く平気と言わんばかりだ。
「聞かせてください。何故貴女はそこまで頑張るのですか?」
マグダレーナ「言ったでしょう…?私はバーサーカーの…スルトちゃんを笑顔にする為にこの大会で優勝する…。それに…」
痛い、痛いっ、痛い!
言葉を発する度に喉が痛い。けどこれだけは言ってやるんだと気力を振り絞る。
マグダレーナ「あなたの願いを叶えさせる訳にはいかない。だってそうでしょう?人でなくなったモノに人を導ける筈がないもの」
雷に打たれたような衝撃を受けた。さっきまで本物の雷撃を受けていたのだがそれはそれ。
そうか…私は、間違っていたのだ。オリジナル否エルシュタイン・ラジアナ・カヴァセルリがどうして自分のような考えに至らなかったのか。それは自己という存在が消えるからなどではない。人として生き、人として死に、その遺志を継ぐ者がまた少しでも良い未来を築く。そんな人の営みを尊んだのだ。
「どこで…間違ったんでしょうね……」
返事など期待していない、独り言のような呟きに、僥倖にも彼女は、マグダレーナは答えてくれた。
マグダレーナ「さあ…。でもあなたが、複製体だと割り切ったのだとしたら…その時じゃないかしら…。この世に完全無欠な人なんて存在しない…。だって、完全になるということは不完全さ[人間らしさ]が失われるということだもの…」
「そうか…そうだったのか……」
体から力が抜けるのを感じた。今となってはこの身がエルシュタインと同じ形をしていることすら許し難い。
「おめでとうございます。貴女の…貴女たちの勝ちです」
真っ直ぐ目を見てそう伝える。そして消滅を選択しようとしたところでふと思いつき、少しばかり猶予を貰うことにした。
「そうだ。忘れるところでした」
まずは自分が傷付けた分のダメージを治癒魔術で治す。ほんの少しやり過ぎて戦闘前より健康になってしまったようだけれどもそれは気にしない。血行が良くなったとかそんなレベルだろう。
マグダレーナ「どういうつもり?」
「いえ、私はこのまま消滅するので、せめて回復をと思いまして。他の陣営は敗退したマスターを仲間にしている可能性もありますしね」
マグダレーナ「そう。あなたは消滅を選ぶのね」
「ええ。それとこれも」
数歩近寄ってハンドガン、グレゴロールを手渡す。
「この銃、グレゴロールは所有者の起源を増幅させ弾丸として射ち出すものです。使ってやってください」
相手が受け取ったのを確認して数歩下がり、手を振って笑顔で送り出す。
「さようならマグダレーナ・グロース、そしてスルト。貴女たちの未来に幸あらんことを祈っています」
〜勝者、マグダレーナ・グロース&スルト〜
- 最終更新:2019-01-31 01:49:47