死後の世界ってどんな所?君も今日から終活のススメ

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●「こんにちは、始まりました世界神話講座、本日のテーマは『死後の世界ってどんな所?君も今日から終活のススメ』!講師のハー………禮丁川メイです」
♡「『はー』?」
●「……気にしなくていいよ。さて、君も自己紹介しようか」
♡「はい!生徒の西行千鶴です!シャルちゃんって呼んでください!」
●「よくできました。じゃあまず最初に質問だけど、君は死後の世界ってどんなものだと思う?」
♡「パパが教えてくれました!……えーと、川をわたってー、エンマ様って怖い人がいい人とわるい人を分けて、嘘つきの舌をひっこぬくのです!」
●「ああ、仏教だね。閻魔大王は、仏教世界観における死後の世界の最高裁判官にして、冥界の王でもある。源流はインドのヤマ神で、そこからさらに遡るとペルシアやら北欧に辿り着くとか………」
♡「ほえー……(魂が抜けかけている)」
●「…と、そこの辺りを掘り下げると難しい文化人類学とかの話になっちゃいそうだし、やめとこっか」
♡「はい!」



●「まず、いろんな有名な死後の世界にはどんなものがあるか学んでいこうか」
♡「はい!がんばるのです!」
●「じゃあ、最初はさっき君が言ってくれた仏教の天国と地獄から。
  この世界観においては、天国や地獄は六つある世界の一つで……つまり人間道を除けば他は全て現世の人間から見て死後の世界ってことになるかな。人間は、この六つの世界を苦しみながらぐるぐる巡っている状態なんだ。だから、仏教徒の最終目的は、仏様になって苦しみを捨てる事。極楽浄土っていうループから抜けた世界に至って、もう戻ってこないことなんだね」
♡「むー……この世界だって、たくさん楽しい事があるですよ?」
●「『楽しい』があるってことは、それだけそれを無くす事や手に入れられない事による『悲しい』があるってことさ」
♡「(宇宙猫)」
●「……これについて語ると今度は世界哲学講座になっちゃうから、次に行こうね。
  日本の死後の世界の話といえば他にもあるんだ。イザナミについては知っているかな?」
♡「兄様がやってるソシャゲにいたのです」
●「……そりゃいるよね。このイザナミという女神は、イザナギという名の兄神と契った後に……」
♡「ちぎった?」
●「…………結婚して子供が生まれたって事だよ。」
♡「へぇ!じゃあ、コウノトリさんはずっとずっと昔からいたのですね!
  ……あれ?でも、パパがサンシントーイナイの家族は結婚しちゃダメだって言ってたのですよ?兄妹はサンシントーではないのです?インモラルなのです?」
●「グエッ………………ほら、神話ってすごい昔だから!場合によっては、辺り一面見渡しても三親等より遠い親戚がいなかったりするんだ!しょうがないんだよ!」
♡「先生、汗いっぱい……暑いのです?」
●「大丈夫!話を続けようね。イザナミは、子供が産まれた後に死に、黄泉の国から帰れなくなってしまったんだ。そこで、黄泉津大神って呼ばれるようなえらーい神様になったんだよ」
♡「だんなさまといっしょにはいられないのです?」
●「死んじゃったからね。生きている相手とは一緒にいられないんだ。黄泉の関は越えられない。
  ほら。結婚式で誓う『死が二人を分かつまで』ってあれも、死が二人を分かった後までは寄り添うことを保証してないし」
♡「オトナはせちがらいのですね……」
●「世知辛いんだよ………」



●「お次は、現代でも有力な宗教の死後の世界の話をしようね。シャルちゃんはヨーロッパが好きなんだったかな?」
♡「はい!お城がステキで、教会がキレイです!」
●「そう、その教会!ヨーロッパの場合はカトリックが多いことだし、そこにいっぱいきれいな絵があるだろう?それが表しているのがキリスト教だ。君もクリスマスやバレンタインは知っているよね。それも、キリスト教のお祭りなんだよ」
♡「あ、たしかに!」
●「そんなキリスト教でも、天国と地獄がある。煉獄っていう、悪い人間じゃないけど素晴らしい人間でもない人が行くところも。……神曲の話とかするともう少し細かく増えるんだけど、今回はさわりだけ大雑把に話すよ。
  特に地獄と呼ばれる場所にも黄泉(ハデス)と地獄(ゲヘナ)があって……」
♡「あれ?ハデスってギリシャの神様なのです」
●「おお!よく知ってるね!偉いぞ!」
♡「兄様がやってるソシャゲにいたのです」
●「…………………………………うん。まぁ、それは聖書がギリシャ語で書かれていた事が原因だね。これについての解説は後に回そう。
  どうして二つ名前があるかっていうと、キリスト教や……同じ源流を持つユダヤ教、イスラム教の世界では、最後の審判ってものが存在するからなんだ」
♡「サイコーサイって事なのです?」
●「……ちょっと違うかな。
  死んだ後、敬虔な信徒…ああ、ちゃんと神様のことを信じてたいい人ってことだよ、は天国に。逆に、そうでなかった悪い人間は地獄で永遠の苦しみを。それを神様が一気に決めるのが最後の審判だよ。一般的には、それが最終決定になるまで待つ所が黄泉と呼ばれるみたいだね」
♡「信じてくれないからっていじめるなんて、神様ってインシツなのです?」
●「神なんてどこも大体そんなものさ。一応弁護させてもらうと、神様が決めるルールっていうのは大体最終的には人の世の秩序の為だ。だから、それに従ってくれないってことは今で言うところの法律違反だし、悪い事なんだよねぇ。」
♡「ホウリツイハンはダメですね!」
●「だろう?ゾロアスター教でも、だいたい似たような感じで善と悪を振り分けているよ。まぁ、あの神話は最後に善が勝つのが絶対条件な所あるから当然の帰結かもしれないけど」



●「じゃあ、ちょうど名前も出たことだし今度は神話の死後の世界の話をしよう。さっき、ギリシャ神話について知っているって言っていたね?」
♡「はい!ゼウスっていうのがカミナリぴかぴかでいっぱいつよくてー、えーっと、きれいな女の人がいてー、あと、ポセイドンの子どもがトリトンでー、トリトンの子供がアリエr……」
●「おっとそこまで!ちょーっと脱線してるね。でもまぁ、今回はギリシャ神話紹介の教師で呼ばれたわけじゃないし、また今度でいいか……
  そんなギリシャの死後の世界、境目たる川を渡った先の行方は三つ。神々に愛されし者のためのポプラの園エリュシオン、本来は大罪人のための刑務所みたいな場所のタルタロス、そして残りの人間が彷徨うアスフォデルの野。で、そこを収めている王様がハデスだよ。君がさっき言っていたゼウスやポセイドンの兄弟だね」
♡「カゾクケーエー…」
●「……さっきからちょいちょい変な言葉が出てくるけど、もしかしてお父さんに教わってるのかな?後でやめろって言っておくね。
  あと言うべきことは……そうだね、冥府の王様の妻は宇宙一美………いや、これ多分言ったら複数方向から矢とかビームが飛んでくる……
  ………………これはあくまで僕の個人的な意見なので他の方が劣ると言う意図は全くありませんが!とても比類なき可愛らしさだと思います!!」
♡「先生、誰に話しているのです?」
●「大人はね、発言に気をつけないといけないんだ。
  さて、ここでさっきのキリスト教の黄泉の話に戻ろう。先ほどは『どうして死後の世界の名前で別の神話の神様が出てくるの?』って質問だったね。これは、冥府を治めている神がハデスであるがゆえに、『ハデスの所に行く』って例えた時点でみんなが『ああ、死んだんだな』ってわかるからなんだ。冥府の神と冥府っていう概念は不可分なんだね。
  ゆえに、それそのものが地獄の名前として残ったんだろう。ちょっと照れるなぁ」
♡「?………ああー!香川にはうどんがあるからうどん県って事なのですね!」
●「………んん?……まぁ、そういうことでいいか……」



●「さて、そんなギリシャから出て地中海を渡った所にある国は、どこだかわかるかい?」
♡「えーと、えーっと……地理はまだあんまり……」
●「じゃあ、ヒントを出そう。砂漠の中の、大きな、三角形の建物。見たことあるかな?」
♡「………むー……ピラミッド……?……あ、エジプトなのです!」
●「そう。エジプトにも神話があって、ピラミッドはその神話の世界観に基づいて作られたお墓なんだよ。日本人も、確か古墳を作っていたね。
  そんなエジプトの死後の世界に関係ある絵が、これだ」
(死者の書の一部が映される)
♡「あ!ワンちゃん!」
●「それはアヌビスっていうジャッカルの神様。この絵は、アヌビスが秤で心臓と特別な羽を比べることで、その人間がいい人かどうか調べている所を描いているんだ。
  心臓の方が重くなければ、その人間は罪がないのでアアルという天国へ。重かったのなら、その人間の心臓は秤の下に描かれているアメミットという怪物のご飯になる。ここで心臓を食べられてしまった人間は、二度と生まれ変わる事が出来ないんだ」
♡「地獄はないのですね。コストカットなのですか?」
●「別に財政難で苦しんでいるわけではないと思うよ。
  ……で、この端っこの緑の男の人がエジプトの冥界の王様のオシリス。元は現世の王だったんだけど、弟に殺された後なんやかんやで冥界の王になったんだ」
♡「あ!ニュースで見たのです!アマクダリですね!」
●「確かに天からは降ったけど!お父さんは一体君にどういう教育してるんだい!?」



●「……気を取り直して。暑い暑いエジプトの次は、一気に北に行ってしまおう。北欧神話だ。さて、君はこれまでの死後の世界に共通した法則はどういうものだったと思う?」
♡「えっと……いい人は天国に行って、わるい人は地獄におちたのですね」
●「そう。やっぱり人間にはいい事をしてほしいわけだから。いい人間にはご褒美をあげて、悪い人間には罰を与えているね。でも、今度の死後の世界にはもうちょっとだけ条件があるんだ。
  北欧において地獄と同一視される場所は、氷の国ニブルヘイム。その支配者の名前を取って、ヘルヘイムとも呼ばれているね。番犬ガルムに守られたエーリューズニルという館には、悪人と戦いの中で死ぬ事が出来なかった人間が送られるよ」
♡「わんわん!?」
●「うん、わんわん。……うちのが一番かわいいがな(小声)
  ……こほん。さっきまでの死後の世界との違いは、戦いの中で死ななかったものなら善人でもここに送られてしまうって事だね」
♡「えー!ひどいのです!病気で死んじゃう人もいるのに!」
●「そう、病気で死んでしまう善人もいるよね。でも、北欧神話の世界で大神オーディンが天国……ヴァルハラに死者の魂を集めるのは、勇敢な戦士たちを集めてラグナロクっていう大きな戦争で戦わせるためなんだ。だから、まぁ……最期の時まで勇敢に戦えないような奴はいらないって事だね」
♡「ひどーい!」
●「目的がはっきりしているのは悪くないと思うけどなぁ。
  ……にしても、当時のヴァイキングなんかはそこに招かれる事を楽しみに一生懸命戦っていたわけだし、双方合意の上ならそこまで非道ってわけでもないんじゃないかなって僕は思うよ。
  だって、なんで戦争に勝ちたいかって言えば、そりゃあ自分の国や家族を守るためだろう?多分。一概に悪い事とは言えないよ」
♡「………そうでしょうか……」
●「歴史の話だからね、今の常識では測れないこともあるさ」



●「それじゃあ次はレルワニについて………(スタッフのカンペを見る)え?尺が足りないから総括に移れ?あのね、世界の冥界はまだまだこんなもんじゃ……
  ……はぁ……まぁ、仕方ないか……」
♡「しかたないのですよ。また今度、バングミガイでおしえてほしいのです」
●「そうだね。……じゃあ、これからいろんな死後の世界について簡単に説明するから、これまでに言ってきた世界たちと比べた共通点を当ててみようね」
♡「はいなのです!」
●「じゃあまず日本から。主に琉球周辺で信じられているニライカナイは遙か東の海の彼方、あるいは地底にある神様の世界だ。そこから先祖の霊が見守ってくれるらしいね。
  逆に北の端、アイヌ民族が信じているのはポㇰナモシㇼ。中でも悪人が行くものはテイネポㇰナモシㇼという。アイヌ語で『ジメッとした下の方の世界』って意味らしいよ。
  一気に飛んで南米、恐怖の場所シバルバーは洞窟を抜けた先の地獄で、フン・カメーとヴクブ・カメーを筆頭に12の悪鬼や災害ともされる支配者が治めている試練の地だ。
  これまた南米、アステカの冥府は……そうだな、代表してミクトランを紹介しようか。九層の世界の最下層だよ。暗い地で、たどり着くにはかなり困難な旅路を乗り超えないといけない。
  それと、古代スラヴ人の信仰には天国も地獄もない。ヤーヴィという現実世界を離れた人間は、皆一様にスモロディナ川の先にあるナーヴヴィ……死後の世界に渡るんだ。
  渡るといえば、ケルト神話……あのあたりに出てくるマグ・メルにアヴァロン、ティル・ナ・ノーグあたりも、みんな海の向こうの島だと言われているね。……ああ、そういえばエリュシオンも説によっては海の向こうの楽園なんだっけ?
  あとは………えーっと、メソポタミアあたりで打ち止めにしておくか。クル・ヌ・ギ・ア……帰らずの国、って言われているけど、そこは七つの門と大きな川を越えないとたどり着けない。偉い女神様ですらショートカットできないんだから、これはもう絶対って言っていいだろうね。まぁ、力づくで押し入ろうと思えば可能みたいだけど」

♡「ほぇ……ほぇ……(必死でメモを取っている)」
●「どう?共通点は見えるかな?」
♡「えっと………えっと……なんか……行くのが大変そうです!」
●「ふぅん。じゃあ、どうしてそう思うのかな?」
♡「えっと、川があって、海があって、かいじゅうがいて、門が………えっと……」
●「うん、大体理解できてるみたいだね。
  そうなんだ。人間は、大きい川や海は、船がないと渡れない。つまり昔の人々にとっては絶対的な境目だったわけだし……門に、洞窟なんていうものも明確に境目を示しているよね。」
♡「……えっと…はい!そうなのですね!」
●「現世の『下』や『横』……つまりある意味地続きの世界にあったとしても、生死の間には境が引かれている。日本語で彼岸、って言う通り、死後の世界っていうのは向こう岸。神の世界なんだよ。」
♡「かみのせかい」
●「そう。文字通り人智が及ばない。一度行ったら最後、神を超える暴力か知略でしか戻ってこられないような世界さ。」
♡「………なんかこわいのです」
●「代わりに、大体のところは生前の功罪に応じて扱いを決めてくれるから、よいこのみんなは安心して善行に励もうね!」
♡「わかりました!いっぱいいいことするのです!」
●「………大丈夫かなぁ……一般的基準でも善行だって判断される方面で励んでくれればいいけど………ま、それを教えるのは僕の仕事じゃないからいいか(小声)。
  行きはよいよい、帰りは怖い。死んだ後に後悔してももう遅いってことさ!だって逃がさないからね!
  画面の前のみんなは、後悔のないよう生きよう!それでは、今日のところは時間が押しているのでこの辺で。」
♡「はい!次回のシンワコーザは、『おうちでカンタン!手作りネクタールで神様のエンカイをマネしちゃおう!』だそうなのです!」
●「お相手は僕、ハ……何の変哲も無い美少年の禮丁川メイと!」
♡「シャルちゃんでしたー!ばいばーい!なのです!」



♡「……ところで、先生はどうして死んだ人にいっぱいくわしいのです?」
●「職業柄、勉強が必要だと思ってね」
♡「?よくわからないけど、べんきょうはえらいってパパが言ってたのです!」

  • 最終更新:2020-07-12 01:20:09

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