有翼の少女、ミュウとの出会い
「くそっ!あの小娘め、言いたい事だけ言って消えおって!」
憤慨するローリーをまあまあと宥めるフェリーペとメンテー。
「では私は少し周囲の様子を探って来ますね」
「待ってください。一人で出て行くのは少し危険です。ここはワタシが作ったドローンを飛ばしますよ。いいですね?所長」
「うむっ、ああ。いいとも、やってくれたまえキャスリーン君」
絡繰で出来たドローンを展開しシャドウ・ボーダーの周囲を探らせる。鬱蒼と茂った木々が邪魔でよく見えないので木より高く飛ばす。
ドローンからの映像によると森はかなり広い範囲に広がっていて二つほど集落のようなものも見える事が分かった。
そして空想樹も確認出来る。特に隠蔽等もされておらず空想樹の近くにも町は無いようだが空想樹から少し離れた位置に都市のようなものが見える。
そして、空には昼間なのに月が見えた。
「…というのがドローンを飛ばして分かった事です。あと空に何匹か鳥型の魔獣らしきものも居ました」
「となるとまずはその集落に行って情報を集める感じですかね?所長」
「そうだな、まずはとにかくこのロストベルトに関する情報を集めなくては」
「おや?」
「どうした?キャスリーンちゃん」
「現地住民らしき少女が魔獣に追われています」
「しかし、あんなでかいカエル見た事ないな」
現地住民を襲っているのは顎がショベルのように出っ張っている大型のカエルだ。襲われている翼の生えた少女はどうやら空を高く飛べないらしく、少し飛んでは、飛んできた舌を避けるために下降するのを繰り返している。カエルの舌は木を切断しながら少女を襲おうとしているようだ!
「……………ねぇ所長?」
「ん?フィリーペ君一体どうしたんだね」
「いやーさ?そろそろ肉なくなりそうでしたよね(棒)」
「……………あ、たしかにそうだね(棒)。カエルって鶏肉の味するって言うよね(棒)」
「えっ食料まだ結構あム」
キャスリーンの口を塞いでフィリーペはエルルーンとともに助けに外へ出る!
有翼の少女、ミュウは森の木々の間を縫うように飛んでいる。背後から追いかけて来るカエル型の魔獣の舌を避け、点在する木の枝を避ける。それでも魔獣を撒くことは出来ずむしろじりじりと距離を詰められていた。
「ダメ…このままじゃ…」
────食べられる
「ダメ!ミュウが食べられたら、お母さんがっ」
一か八か枝を蹴って加速しようと降り立ったその時
ギュエッ
魔獣の悲鳴が聞こえ、追ってくる気配が無くなった。
「なに…?」
ミュウは木の影からこっそりと後ろの様子を伺った。
「戦闘終了、お疲れ様だ。後輩、エルルーン」
センパイのシールドバッシュで体勢を崩した所に上空からエルルーンが刺すという黄金コンボが決まってカエル型魔獣が完全に動かなくなったのを確認して一安心する。
「ありがとうセンパイ。あとは」
少し離れた所にある木の影からこちらを見るとこちらを見ていた女の子と目が合う。
チュピッと驚いた声を上げて隠れてしまった。怖がらせてしまったかな?
「私が飛んで行って話してみましょうか?」
「いや、それじゃ多分逆効果だ。こういう時は…。
おぉーい、大丈夫だからこっちにおいでー!」
手を振って大声で叫んでみる。すると木陰から出てきた少女がぱたぱたと羽ばたいてこちらに飛んで来た。
「これ、あなた達がやったの?すっごーい!ヨーゼフはたしかにありふれた魔獣で罠をつかったらミュウにも狩れるけどあっという間に仕留めちゃったの!」
「ヨーゼフ?」
「うん、この魔獣の名前。お兄ちゃん達知らないの?」
「ああ、まあ…この辺りに来たのは最近だから魔獣の名前とかは分からないな」
そんなやり取りをしているとシャドウ・ボーダーが追い付いて来てキャスリーンちゃんが出て来る。
「ほうほう、遠目からでも大きいのが分かったけれど近くで見ると本当に大きなカエルですね」
現地の生物の生態を確認する意味もあってキャスリーンちゃんが魔獣の解体を始めようとするとミュウが遠慮がちにキャスリーンちゃんに話し掛ける。
「あの、あのね。できたら少しでいいからミュウにもヨーゼフのお肉分けて欲しいなって…」
「えっと…?」
「いいんじゃないかな?」
それから俺達は少し打ち解けて普通に話をするようになった。そしてミュウの家に魔獣肉を届けるついでにミュウを送っていくようになった。
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はフェリーペ、フェリーペ・ジョージ・デ・サント」
「メンテー・プルトランプだ」
「エルルーンよ」
「ワタシは西行・キャスリーン・華恩と言います」
「ミュウはミュウっていうの。種族はハルピュイアだよ」
『(知ってた)』
「それじゃあ行きましょうか」
『ちょいちょーい!』
ホログラムが浮かび上がって所長の姿が浮かび上がる。
「私を忘れるとは何を考えているんだね君達ィ」
「あー、その。忘れてたわけじゃないんだ。ただ所長はその…名前がな?」
センパイが言い難い事を言ってくれた。やっぱりこういう時はセンパイを頼るものだよな、うん。
『それ前にもやったよね!?私は別に幼女性愛者[ロリコン]ではないのだよ!』
「ろりこん?」
「ミュウちゃんは聞かなくていいからねぇ」
そんなやり取りをしていると笑い声を聞かれたのか鳥型の魔獣──クラーラと言うらしい──に襲われたりしたけどセンパイとエルルーンが協力してやっつけてくれた。センパイのプロセルピナって装備にも大分慣れてきたようだ。
戦っている間にふと気になったことがあったから移動する道すがら聞いてみる事にした。
「ところでミュウ、さっき所長がホログラムで出てきた時なんで驚かなかったんだ?」
そう、今まで特異点や異聞帯等行く先々でホログラムを見た現地の人々は最初は驚いていた。でもミュウはそんなに驚いた素振りを見せなかった。
そんなに深刻って訳ではないけど一度気になりだすと色々と考えてしまう。そう、例えばそういう半透明な種族と思ったとか。ハルピュイアがいる世界なら有り得る…と思う。
「え?だってこんなおっきな機械があるんだもの、ホログラムが出たって驚かないよ」
予想の斜め上だった。
「どう思う?センパイ」
「もしかするとこの異聞帯では意外と科学が進んでいるのかもしれないな」
『ミュウちゃん、ちょっと解体したお肉の可食部について教えて欲しいんだけど』
「はーい!」
アナウンスでキャスリーンちゃんに呼ばれてトテテテ、と歩いて行くミュウ。飛べないのがもどかしいのかたまに翼をぱたぱたと振るのが可愛らしいな。
道中一度だけクラーラに遭遇したもののそれ以外は特に何も無くミュウの家に到着した。
ログハウスのような建物の周りに生垣のように植物が囲っており中の庭に当たる場所ではマスクをした女性が椅子に座りながらナイフと金槌を使って薪を割っていた。
「あーっ!お母さん!また外に出て、ダメでしょ!」
ミュウが飛び出して女性の元へ羽ばたいて行った。…凄いスピードだな。
「おかえり、ミュウ。大丈夫、今日は調子が良いから」
「そう言ってこの前3日も寝込んだの忘れてたわけじゃないでしょ!?」
そんな2人の元へ俺とセンパイ、あとエルルーンがボーダーから降りて歩いていくと向こうもこちらに気付いたのか椅子から立ち上がる。
「娘が危ないところを助けてくれたと聞きました。ありがとうございます。大したおもてなしは出来ませんがゆっくりしていってください」
深々と頭を下げてくるミュウのお母さんのお言葉に甘える事にした俺達はとりあえずキャスリーンちゃんが解体した魔獣肉をボーダーから降ろす事にした。
- 最終更新:2020-01-02 15:27:56