散華する背信者

 振り上げられたそれを、ガヌロンはただただ見つめていた。
 天を衝く魔力刃。かつて同胞が対峙した巨人族の武器と同じか、それ以上に大きい。
 防ぐ、という考えは最初から吹き飛んでいた。
(回避は――間に合わん、か)
 如何せん巨大すぎる。今から全力で回避しようにも、彼の敏捷ではぎりぎり間合いから離れられるかどうか。
 十中八九、片腕だけではすまない。半身を「持っていかれる」か、あるいはそのまま霊核をも両断されるか――いずれにせよ、どうにもならない。
 どうあがこうと待っているのは死。それだけだ。
「……儂の首をいただくと言ったな、反逆者」
 握りしめていた魔剣を、地面に突き立てる。
 柄に埋め込まれた聖遺物――最早そう呼んでいいのか分からない――が、禍々しく輝き、蠕動する。
「よかろう、くれてやる。ただし貴様も道連れだ」
 目の前のサーヴァントはどう見ても致命傷。放っておけば数分と経たず消滅する。
 が、それでは気に食わない。己が野望を踏みにじるこの英雄に、一矢報いねば消えようにも消えきれない。
「ガヌロン卿――!」
 遠くからマーシャルが叫ぶ。
 ――思えばあの若造にも振り回された。生前といい此度といい、どうやら己の立ち回りというものは一度死んだ程度では変わらぬらしい。
 ふと、目の前の英雄がどこか笑っているように見えた。己を討ち取れる事が、そんなにも誇らしいらしい。
 己の死なぞ、あの女王にすれば玩具を一つ失った程度でしかないというのに。

「せいぜいあがけ、小僧ども。あのどうしようもない、愚かで狂った女王の下でな」

 魔力が暴走し、熱線ならぬ破壊光となって四方八方に解き放たれる。
 それは振り下ろされる魔力刃に対し無力だったが――目の前にいた、半死半生の敵を貫くには充分だった。
 衝撃波と閃光が周囲を衝き抜け、巻き込まれた建物が崩落する。
 全てが終わったその後、マーシャルたちが見たものは――

  • 最終更新:2019-03-17 14:38:10

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