思惟の海

シンモラが召喚され、後、キャスター・モーシェ・デ・レオンは自身の工房で椅子に座り思考に耽り、独り言ちる。

(キャスター・シンモラの加入によって守りは万全。さらに万全を期すならフォーリナー・リンドヴルムにも陣地の形成を依頼しておくべきでしょうか)

本に囲まれた書斎とすら呼べる私室にて足を組み口に手を当てるその様はまるで霧煙る謎を前に如何にしてそれを晴らさんとする探偵のようにも思える。

(しかし、この異聞帯に根を張るであろう空想樹が問題ではある。ノウム・カルデアで再召喚された折にデータを閲覧した程度でありあくまでこれまでは予感。しかし、神殿を設置した現在であれば確定した事実。今まさに脈動する生物であり生存力に富んだものだというのは知っている。想定通り、アレは地脈から魔力を吸い取り成長を促す魔樹である。であれば工房を設置し霊脈からの魔力を実用に適うほど引き出せば敵対行動と見做されるのは必至。特に聞き及んだフォーリナーの陣地作成スキルは地下にて構築するもの。どうしても空想樹の根とかち合うことは避けられない。
……そこは私が異空間を形成、この地の霊脈を寸分違わずコピーした疑似霊脈を以て共鳴の魔術によりこちら側の霊脈に触れずに魔力を汲み取ることは可能でしょう。最も、それも気づかれれば無意味なものになりますがしないよりはマシでしょう)
「……ふぅ。難儀なものです」

濾過異聞史現象──、人理焼却に限らずとも、人理に大規模な乱れが生じた際に人理再編に伴い切り捨てられたモノ達が浮上することは焼却の起こっていた時から“乗り越えた先に起こる問題”として“識っていた”し、実際自身に限らずかの第四特異点に存在していた蒸気王チャールズ・バベッジやその彼から依頼を受け調査、退却を辞退しカルデアに留まったシャーロック・ホームズ、キャスターの座(クラス)で現界を果たしたクー・フーリン然り、気づいていた面々も少ないながらも存在したが。
──思考が逸れた。少なくとも現状においては対応策としては“想定通り”。仮に空想樹に動かれてもその場で対応は出来ると断言できる。

(とはいえやはり開花状態を見極める為にもある程度の挑発行為は必要ですか)

欲を言えば敵サーヴァントの一騎や二騎。神酒による汚染を洗浄してこちらに引き入れたいものだが──。
(まぁ、そちらはデン・テスラとその一味でも事足りますか。相手方の要望に沿うかはともかく、あのビデオの情報が正しければ。人理が曖昧な今であれば相応の手札は提供できますし)

最悪─、空想樹の銀河(宇宙)にはこちらの世界(宇宙)をぶつければ相殺程度は出来るだろう。
そこまで考えたところで工房の入り口である扉がノックされる。

「先生、いるー?そろそろ会議の時間だから呼びに来たんだけど」
「これはマスター。わざわざありがとうございます。ええ、そろそろ動こうと思っていたところです」

催促に応え席を立つ。

万事つつがなく──、成せば成るだろう。得てして運命というものは着くべく場所に着くのだから。

  • 最終更新:2019-12-24 23:03:50

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