妖術師、子供を拾う

西洋某所。

部屋の中には複数の人間がいたが、その時点で立っている状態の人間は一人だけであった。
「惨めですねぇ」と、女が嗤う。「ワタシが最近少しばかり子供の面倒を見てやったりしているなんて噂を聞いたからって、甘くなったとか勘違いしてしまいました?」
足で踏みつけにしている男が呻き声を上げるのを聞いて、女の微笑みはより一層鮮やかになった。いわゆる「営業スマイル」から獲物を甚振る肉食獣の目へ。本人としてはあまり好きではない本性だが、好きでもない相手に対して自重するほどのものでもない。
「うんうん!勘違いした愚民の苦しむ声って最高!––––やはり、こういう楽しい下等生物苛めこそが妖術師の本分というものです。ワタシも少しばかり自分が心配になっていたところなのですが、まだまだ現役いけそうですねェ!」
さらに、踏みつけにしている足を相手の頭側に移動させて話を続ける。
「……あなたの使っている魔術ですが、見取ってみれば大したことありませんでしたね。目新しいことも特にありません。残念です。かわいそうですねぇ、こんなもののために何代も時間なんて費やしちゃって。挙げ句の果てには判断ミスで大失敗だなんて……いい機会ですし、真っ当に陽の光の下で働いたらいいと思いますわ。
 こんなちゃっちい神秘を暴かせていただいたぐらいでは、そちらの無礼に対してこちらは全然気が済みません。なにか手土産を持って行かせていただきますね?ワタシ、噂通りガキの様子を見なければいけないものですから、帰りをあまり遅くしたくないですし返事を聞く手間はとりません!敗北者(あなたたち)に意見する権利なんてありませんしね。それじゃ、ばははーい!」
足元の男の屈辱感に満ちた顔に満足げに頷くと、女は勢いよく男の頭を蹴り飛ばした。
一瞥し、男が気絶していることを確認した上で魔術回路があるあたりに二、三細工(余計な逆襲をされると時間の無駄だということもあるが、単純に性格が悪い)をして、女はこの家の一族が工房を持っているという地下へ軽やかな足取りで進んでいった。

「うーむ。これと、これ––––––そっちのは帰って自分で作った方が良いものになるから置いといてやっていいか。あとこれもー!」
上階にいた時の作られたように女性的な声とはうって変わり、トーンこそ低いが自然な口調でカバンに物をポイポイと放り込んでいく黒髪の女。
「いやァよかったよかった!羽虫に集られるのは面倒だが、こうやって詫び素材採集ができるのであれば悪くはないな!悪いのはあっちだしどっかから叱られる謂れもねェ!たはー!」
……入れたものの体積はカバンの大きさを超えているようにも見えるが、そこはまぁ企業機密な魔術の賜物である。

めぼしいものはあらかた入れ終わった所で、女はその部屋全体の独特な臭気の源であろう鍵のかかった部屋に目をやる。
魔術・物理の二側面から鍵をかけられた部屋をワンタッチで解錠すると、女はカバンを雑に引きずりながら扉を蹴りあけた。

中にはボロ切れが一つ……正確にはかろうじてボロ切れがまとわりついている人型のものが一体、落ちていた。
「……さっきの人造人間共の同種か?」
人型の物体を引き起こしてみると、虚ろな瞳が女を映しているのが見える。薄汚れて乾ききってはいるが、かろうじて生きてはいるようだった。
「…………失敗作、か………」先ほどまで調子よくニヤついていた端正な顔を軽く顰めると、女は何かを考えてるようにしばらく黙り込む。

「––––––––だー!もう!仕方ねェな!」と女は叫び、黒髪をかきあげる。そのまま髪を邪魔にならないように頭の横でひとくくりにすると、「…あーくそ!重っ!」と悪態をつきつつ人造人間を背負いこんだ。
「どうせ置いてっても死ぬだけだし………ま、教えりゃお茶汲みぐらいはできるだろ。
 あとは名前、名前………ちづる、とかでいいか」


後におん–––男は、帰宅した自分が年端もいかぬ女児を背負っている所を目撃した弟子に「誘拐ですか!?」と訊ねられ返答に困ることになるのだが、それはまた別の話である。

  • 最終更新:2020-02-25 22:48:18

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