太陽王ばんざい(ヴィヴ・ラ・フランス)!

『ほぅ、我(フランス)を従者として呼び出すとは……一体どう言った要件か……?』
召喚に応じたのは派手、絢爛豪華と称するに相応しい煌びやかな服装の男。
大仰な衣装だがソレに着られるようなことはなく、男自身もまた美麗にして頑強……一目で常人はおろか盆百な英霊すら比べようにならぬ『厚み』のある覇気。
従者(サーヴァント)の立場にありながら、決して他者に謙ることはなく、ともすれば圧倒するような見るからに傲岸不遜な典型的な王。
『なるほど、此処は仏蘭西(ワタシ)であるということか……』
男は周囲を見渡す。男にとっては馴染み深いなどという言葉では語り尽くせぬ、己の分身とも言える風景を俯瞰する。
男にとって無駄な時間はない。ただ見たままの光景から状況を察し、それに相応しい在り方を『演じ』る。それだけだ。
『なるほど、仏蘭西(ワタシ)の役割は汝の兵士か……。』
無粋な問い掛けも自身の主に対する服従を示す台詞も吐かず、ただ一言……変わり果てた己(フランス)の統治者に告げる。
『だいたい理解った。』
続けて男は剣を掲げる。その身を包む装束に負けず劣らずの装飾がなされた剣を。
見るものが見ればその剣の出自……そしてソレを帯びる英霊の『格』を知ることは容易であろう。
シャルルマーニュ伝説にて語られる、天下無双の御佩刀にして彼が生前統べ、今現在において召喚がなされた国における王権の象徴。
剣の名は聖剣ジュワユーズ。──ソレを手にする男の真名(な)はルイ=デュードネ……広く知れた名で呼ぶのであれば、『太陽王 ルイ14世』と呼ばれた男。


──リヨン
特異点であるフランスにて連鎖召喚されたサーヴァントであるライダーは王国軍が支配する都市に襲撃を仕掛けていた。
人理を守る英霊として義憤に駆られ王国軍に反旗を翻した……などという理由ではもちろん無い。
多少頭が回るからと言って彼はその『子孫達』同様に刹那主義であり快楽主義者だ。加えて『背徳』という厄介極まりない『起源』を抱えたライダーがそのような英雄紛いの行動を取るはずなど無いに等しい。
ただ、王国軍を従える王妃には惹かれるところが無い訳でもない。高貴なる悪女。民草を弄ぶ毒婦。そんな気位の高い女を屈服させた時、一体どのような快楽を得られるものか。
(あぁ、女神(ヘラ)には劣るが実にいい獲物だなぁ……神はともかく星の司る巡り合わせには感謝してもいい!)
……その歪んだ欲望を一時押さえ付けるがためだけに彼は襲撃を仕掛けた。
貞淑な人妻の前でその夫を嬲り殺.し、その後『子孫達』に襲わせたのはそれなりに愉しくはあった。
田舎貴族の娘にみっともなく命乞いをさせ、『子孫達』の蹄を一人一人舐めさせた時の興奮と言ったらなかった。だが……
(あぁ……まだ『達していない』!あぁっ、やはり貴女でなくては駄目なのだ!王妃よ!)
男の欲望は留まることを知らない。彼は王妃に彼女が見下す愚民すらも鼻白むような屈辱を与えなければ、気が済まないのだ。
そして厄介なことに……彼は自身の欲望を実現する為であれば、手段を選ばない。
『哮る野蛮な我らの仔(ケンタウロス・ブリゲイド)』……彼の宝具にして彼が従える『子孫達』そのもの。
神話に謳われる通りの野蛮にして獰猛なケンタウロスを呼び出す宝具だ。
無銘のケンタウロスを呼び出す程度に過ぎない為、発動に必要な魔力は比較的に少量……加えて『繁栄』の概念を秘めた彼らケンタウロスは時間経過により徐々に増殖する。
彼はソレを用いて都市に襲撃を仕掛け、其処で魂喰いを行うことで魔力を充填し、更なる戦力向上を計っていた。
いずれは王国軍の本陣へと攻め込むために。
(私の『子孫達』は雑兵に過ぎないが、数が多ければ多いほど脅威だ。サーヴァントを足止めすればその分だけ王妃本人の警備が手薄になる……)
たとえ、数秒であっても王妃を害することが出来れば自身は満足に逝(イ)くことが出来る。
そんな想像で胸を膨らませている最中、不愉快な老人の叫び声が響き渡った。
『太陽が!太陽神が助けに来てくださったぞ!!』
(太陽神……だと?)
神という単語に対してライダーは眉を顰める。追い込まれて壊れた老人の戯言といった雰囲気ではない。その声音には明らかな安堵が含まれていたからだ。
ライダー自身と同じように機嫌を損ねたケンタウロスの一体が老人に向けて矢を放った。
矢は老人の胸に吸い込まれるように命中──するとこはなかった。
老人の後ろから馬に乗り駆けつけた男が手に持つ剣によって矢を撃ち落としたのだ。
(私の『仔』の矢を……!ただの王国兵ではない!サーヴァントか!?)
続け様に騎乗剣士は数体の『子孫達』の首を跳ね飛ばした。
十秒に満たない速さでそれを行いながら、返り血ひとつ浴びることなく優雅に佇む騎乗剣士は口を開いた。
男の霊衣はまさしく太陽を模した何かの劇の衣装にも見えるものだった。一見、巫山戯ているように見えるが、先程の一閃をその目で捉えたライダーに油断はない
『汝が我らが王国を荒らす蛮族に相違ないな?』
「貴様は何者だ……サーヴァントといえど我が仔を容易く討って見せるとは只者ではあるまい……名乗るが良い」
ライダーの問いかけ自体に意味は無い。相手が誰であろうが、ライダーは目の前の男に興味はなく、目的(おうひ)の前に立ちはだかる障害でしかない。
(あと数秒、時を稼げば『滾る火焔の罪と罰(イクシオン・ホイール)』で焼き殺.せる!その高貴な面が焼け爛れる様をじっくりと見て笑ってやろう!)
ライダーの問いかけに騎乗剣士は答える
『そうだな……今は王国軍の兵士役だが同時に太陽神(アポロン)でもあるといったところか。』
応え終わった瞬間、ライダーの思惑通り火炎が燃え盛り全身を焼き始める。
「は???」
ただし、ライダーの身体を……だったが。
起こっている事実に理解が追いつかないといったライダーに対し、騎乗剣士は毅然とした対応を続ける。
『驚くこともあるまい……太陽に手を伸ばし、焼かれたなどという神話は有名であろう?よもや汝が知らぬ筈も無かろう火車の咎人──イクシオンよ』
「き、貴様……真名をッ!?」
『ケンタウロスの軍勢……いや、群れというべきか……それを操るものなどそう多くはなかろう。加えて道中、幾つか焼死体を見つけたよ……ともなれば真名の推察は容易。警戒すれば対応にも余裕が生まれるというものだ』
ライダー──イクシオンは確かに策謀を得意とするサーヴァントであるが、つまりはその策謀を発揮するまでもなく正面から叩き潰せば脅威は半減だ。
『加えて、相性というものもある。神に裁かれた咎人である汝ではこの太陽神(アポロン)は倒せない。』
何より、と男は高らかに歌うように続ける。
『この仏蘭西(ワタシ)において我(フランス)を相手にしたのが汝の敗因である。』
聞くものによっては何を言っているか理解できないであろう。しかし、イクシオンは瞬時にその言葉の持つ意味合いを理解し嗤った。
「ハハハハハ!!なるほど、なるほど!それで太陽神(アポロン)というわけか!!なるほど、合点が言ったぞ!」
ヤケになったように嗤うイクシオン。事実に既に生存は諦めていた。
だからこそ、最後に騎乗剣士に向けて呪いを吐いた
「私が負けたのも当然か!貴様こそがフランスの真の王!王朝の最盛期を築き上げ、そして滅亡の原因を生み出した傲倨の王!かの王妃と並ぶ暴君!ルイ14世!」
「ハハハハハ!その貴様が王妃と恭順し、共に民草を虐げるとは!?こんな愉快で背徳的な喜劇はないな!ここで朽ちるのは惜しいが、せいぜい貴様が来るまで観客席(タルタロス)から見届けさせて貰おう!」
言うだけ言ってルイ=デュードネの返答を聞くことなく消え行った。
『ふん、残念ながら今の我(フランス)は王ではない。まぁいいさ……地の底であっても観客がいるのであれば悲劇であれ喜劇であれ人の可能性を演じ続けて見せよう。それが仏蘭西(ルイ=デュードネ)という英霊なのだから』
イクシオンの立っていた地を見据えながら誰に聞かせるでもなくルイ=デュードネは呟いた。
『そういえば、リヨンといえば歌劇場が有名であったな……。此の地の反乱分子の炙り出す目的も含めて此処に留まるのも悪くは無いだろう。向こうにはマーシャルもガヌロンもいるしな。決して仏蘭西(ワタシ)がオペラを鑑賞したいわけではなく……』
ルイ=デュードネは弾むような足取りで歌劇場へと向かった。

  • 最終更新:2019-03-16 23:30:07

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