光より速く撃たれた弾丸

虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。装甲車に見えてしまうが船である。虚数の海を越え、世界を港に浮かび上がる潜水艦。この船に人類史の未来は掛かっているといっても過言では無い

虚数の海を揺れる船の目的地はアメリカ。その深度の高さにより危険視されていた異聞帯の一つである。今回の空想切除も苦難の道であろう。だがそれでも彼らは行く。何故なら彼らはカルデア。人理の異常を修正する者たちだからだ

「マスター起きろ。もうそろそろ着くぞ」
虚数の海に慣れてしまい、うつらうつら夢の海を漕ぐカルデアのマスター『藤丸立夏』の肩を叩くセイバー『白雪姫』。白く透き通った肌を見ながら伸びをする
「ありがとう白雪姫」
「全く…………でもこんな環境で寝られるなんて貴女はある意味大物ですね」
「ごめんごめん、なんか慣れちゃってさ」
魂を抜ける感覚を慣れたと言い切ったこの子に図太いのかそれとも器が大きいのか。白雪姫は少しだけため息をつくが、揺れが大きくなっていくのを感じ、身体を整える

シャドウ・ボーダーはこうして異聞帯の一つにへと浮上したのだった

Lost belt 異聞深度A+
A.D.1925 不滅人生堕落論 ニューヨーク
〜見よ!アメリカ大陸は動き歩く!〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
屋上。アルコール臭漂うプールが配備され程よい室温が保たれている居心地の良い空間。ここにベンチに寝そべる者がいた。片腕しかなく漆黒の燕尾服に身を包んでいるが、その顔につけられた傷ついた牛の顔骨が不気味に浮かんでいた。残っている片手で酒を飲もうとする彼。しかしそのグラスは唐突に吹いた風により奪われてしまう!

代わりにグラスを掴んだのは若い青年。葦毛色の馬に乗り鎧をきた騎士然とした姿は世の女性を虜にするだろう。彼は手に持つ剣を鞘にしまい、酒を煽る

「ほう、きましたか『肝心』さん。これで全員集まりましたねぇ」
ねっとりとした口調で言い切る。その声から男性だとわかる
「すいませんね『黒幕』。風でカルデアを感じてはいたのですが、仕事が忙しくてね」
「貴方は我々のリーダーですからねぇ。いやはや仕方なしですねぇ」

『黒幕』と呼ばれた男は蚊を触る。彼の分身のような物なのだ。そしてその蚊を握りつぶすとその残骸が粉となり映像を映し出した!

「カカカ!街中に来客とは。不恐怖、不用心とは誠此事!」
プールの中に入り女を侍らせている筋肉質の男がカルデアを嘲笑う。その映像には車道を走る戦車や装甲車に紛れ込むシャドウ・ボーダーが映し出されていた

「そう笑ってやるな『蛮暴』。お前さんのすぐ貶めるのは主の悪い癖だぜ?」
大量に車輪がついた全身鎧を着る男が同僚を諭す。男の言葉を聞き、女を揉みしだく『蛮暴』。そして男に向けるその目には残虐性が宿っている
「『無敵』。貴殿は死去が願望?」
流れ出す殺戮の気配。しかしそれは間に通った矢で収まった

「よさんか二人とも。最近歯応えがないからとはいえ、身内で争うほど愚かなことは無いぞ?」
矢を放ったのは老人である。彼は『舵取』、その場を整えるのが彼の役目だ

「しかし『黒幕』氏。彼奴は我々の退屈を満たしてくれるのですか?」
双剣を持った男が尋ねる。その目は血に飢えている。彼此1ヶ月、クリプター『リドリー・フォーサイト』の大逃走以来彼は戦闘していないのだ

「ええ、ええ、ええ!『処刑』さん。貴方の期待は裏切りませんよ!面白い事になる。……………もしかしたら私達の世界もなくなるかも……………しれませんねぇ?」
「そいつは少し困ーるね!」

『黒幕』の言葉に反応を示したのは鎌のような槍を持つ男だ。虎模様の皮を被った若武者と言った出で立ち。そして赤字で書かれた文字がある旗を持っている
「拙者、この世界で 退屈せず毎日を楽しーく過ごしているのだ。何処の馬の骨も分からない奴に壊されたくはなーいね」
「ふむ『弾丸』さん。貴方が意見するとは珍しいねぇ」

『弾丸』と呼ばれた男は小刻みに震えて笑う
「拙者だって口を出したい時はあーるのさ。ただまー。久々に血が燃えていーるからな」
身体を動かし、準備を整える『弾丸』。そして彼は『肝心』に聞いた

「それじゃーあ、行ってきてもいいか?」
「フフ、いいでしょう。貴方の狩り楽しみにしてますよ!」

その言葉を合図に『弾丸』はその姿が消え……………次の瞬間彼は映し出されていた映像に現れていた!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜
5分前
「ここが新しい異聞帯……………なの?本当に?」
「いや違うってことないと思うんですけどね……………?」
藤丸とアーチャー『アルベルト・アインシュタイン』は窓から見える景色を覗く

高層ビルが立ち並び、空には高速ハイウェイ、そして"一般人"が往来している街だ。これまで訪れた異聞帯はどれも藤丸の知る現代とかけ離れており、明確に違う世界に来た感覚があった。しかしこの異聞帯『アメリカ』は藤丸がテレビで見たアメリカそっくりに発達しているのだ。間違えて並行世界のアメリカに出たのか?だがその疑問はキャスター『モーシェ』が否定する
「マスター。貴方の気持ちは理解できます。しかしながらここは紛れもなく異聞帯。この装置にもその是非がありますよ」
「そうだ、マスター。わしも感じるぞ。刹那的でそれでいて永劫的……………なんとも言えん雰囲気がある」
モーシェの言葉に続きフォーリナー『竜王 リンドヴルム』も賛同の意を表す。彼の特異な感覚がこの異聞帯に流れる違和感を掴んでいたからだ

その言葉を聞き改めて周りを見渡す立夏。その胸は豊満である。すると彼女は気づいた
「『なんで私達目立ってないの?』」

そう彼女たちが乗るのは虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。いくら現代的だからとは言え見た目が装甲車である船が目立たぬ道理はない。だがシャドウ・ボーダーに違和感を持つ人間はいない。"まるで元からあるかのように"その存在を受け入れている

「マスター。どうやら私達は目立たないようだ。前をみてくれ」
白雪姫の言葉に促され前の窓から胸が押しつぶされるくらい乗り出す。するとそこには大量の戦車や装甲車が道を走っていたのだ!

その光景を嫌悪感を露わにしつつ見るアインシュタイン。そして彼女のその明晰な頭脳と並外れた洞察力が違和感を捉える!
「『病院がない?』」
人間の営みにとってもっとも大切なものだと言っても良いものである。だがそれが見当たらないのだ

皆が窓の外から観察していると大きな欠伸の音。声を発した主はみなの注目を浴びつつ眼をこする。そして鼻をひくつかせる
「『すっごく酒臭いな』。外からの匂いか?」

バーサーカー『大嶽丸』は声を出しつつ女衆に近づく。彼は女が大好物なのだ
「オッハーッ!」
「ウォ!!耳元で叫ぶなよマスター。酔いも冷めちまったぜ」
文句を言う割にはにやけ顔が止まらない。そんな彼をモーシェは諭す
「バーサーカー。今色目を使うのはやめてもらえないか?せめて夜にしてくれ」
「へ、学者さんは真面目なこった。……………ふーん。変だな」
「どうしたんだバーサーカー」
「いやね白雪姫の別嬪さん。この世界『酒の匂い』しかしなくてね。うまい酒には美味い料理が付き物なんだが……………」
「それが存在しないと?」
「ああ、そうだ学者さん。俺の鼻に間違いはねぇ」
「わしの感じた雰囲気と同じようなものか」
「しかしそうなるとこの異聞帯は"何が狂ったんだろう?"」
アインシュタインの疑問の提唱により皆考え出す。そうそこが運の分かれ目だった


衝撃音。破壊音。そして閃光!ボーダーの近くで鳴り響き、内部が大きく揺れる!何が起きたのか?誰もが把握できずにボーダーは蹴り上げられ一回転した!

「マスター!」
藤丸は頭を打ちそうなところを白雪姫に助けられる。ほかの面子もどうやら無事だ

「一体何が……………」
「外の映像を!」
藤丸のつぶやきとモーシェの指示が重なり響く。モニターに映し出されていたのは一人の男だった!

虎模様で身体が一部見える和服!白地に赤く文字が刻まれた旗!鎌のように十字が片方折れたかのような槍!そして両頬にそれぞれ三つの横傷!なんとも奇妙な格好だ!

「サーヴァントです!霊基はランサー!ですがこの霊基……………!」
「ああ、わしらでも見てわかる。"異常だ"。しかもわしらより強い」
アナウンススタッフの声を遮り、言葉を放つ。藤丸は外の男から目が離せなかった。今までも強敵と対峙してきていたが、これ程までに"強烈な歪"は見たことない。まるで"酔っ払っている"ように……………

「おいおい!しっかりしてくれよ!」
そんなボケっとしている立夏の豊満な尻を叩こうとする大嶽丸。だが彼の善意と邪な気持ちが詰まった手は白雪姫に止められ届かなかった

皆がボーダー内部で警戒する頃、外の男は小刻みに震え笑っていた。その様子を見る市民は彼らに釘付けである。「WAR」「WAR」「WAR」「WAR!」「WAR!」「WAR!」
「WAR!!」「WAR!!」「WAR!!」「WAR!!!」「WAR!!!」「WAR!!!」「WAR!!!!」
周りの市民のボルテージは一気に最高潮へ!その雰囲気の高まりにだんだん震えが早くなる男!そして大声で笑いだす!
「ヴェハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

そして彼は目の前の敵にそして周りの市民のために自らの正体を明かす!

「よーこーそ!!カルデアのー諸君!!我が名は『傷持七豪集の一人』!『弾丸の一人目』!『虎狩りのケイトー』!!貴様らのー首印、まとーめて傷面(スカーフェイス)にー捧げてーくれるわ!!!」



そして遠くからその姿を見るものあり。「まずいな。カルデアを助けなくては……………」

  • 最終更新:2019-06-26 00:00:50

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