交流:同盟締結

静寂を断ち切ったのは、ハリーの奏でた腹の鳴る音だった。

「お、お腹が空いてるなら、なにか作ろうか? 残り物でよければだけど」
『(毒物の混入が予想されます。断るべきかt)』
「ああ、よければお願いしようかな」
『(マスター!?)』
「(大丈夫大丈夫。敵対する気はなさそうだし。せっかくの厚意だ。ありがたく受け取ろう)」

セイバーの念話による忠告を無視し、銀河からの申し出を受け入れるハリー。
毒や睡眠薬の類の混入。ハリーも警戒はしたが、彼の空腹は既に限界を迎えていた。
無理もない。
朝から何も食べずに街を歩き回り、人一人を浮かばせるだけの突風を断続的に起こし続けてきたのだから。

「そういえば、君達はここまでどうやって?」
「あたし? 実家の虚神町から、徒歩で」
「へえ。近いの?」
「うーん。普通じゃない?」

味噌汁を啜りながら尋ねるハリーに普通、と断ずる銀河の言葉をマリア―――ハリーの纏うスーツに内蔵されたAIが感知する。

『(ハリー……彼女は嘘をついています。いえ、嘘ではなく、彼女にはそれが普通というのが正しいでしょうね。彼女の住む虚神町は、ここから徒歩で6時間ほどかかります)』

茅理銀河。外なる宇宙より到来したネフィリムが一騎。
人ならざる『身体能力』―――否、『性能』を持つ彼女にとって6時間程度の距離は徒歩でも何ら差し支えないものだった。

「そういうあなたは? さっきみたいに空飛んでたってことは、私と同じ魔術師だったり?」
「……ああ。そうだよ。僕はハリー・ウォーカー。この聖杯大会に参加したマスターだ」
「(そこまで話してしまっていいのですか?)」
「(遅かれ早かれバレるとは思うしね)」
「(それでは。私も)」

念話による軽い会話を終え―――刹那、ハリーの真横に淡い光が浮かび、瞬く間に人型の像を結んだ。

「我が名はセイバー。マスター、ハリー・ウォーカーのサーヴァントです。以後お見知り置きを」

現れたのは黒髪を結って束ねた美女。
黒いクラシックなコートを纏い、同じく黒いスーツを一分の隙もなく着こなした麗人だった。

「へー……あたしは茅理銀河。こっちの黒いのはキャスター。よろしくね、ハリーさん?」
「牛乳パックはカルボナーラにして小麦粉は私が頂こう(誰が黒いのだ、誰が)」

妹と同年代のように見える目の前の少女に、ハリーは心をひどく傷んだ。
彼女を放ってはおけない。助けないと、なんてのは上から目線かもしれないけど。彼女に協力してあげるのが僕がここに来た役目だとハリーは本能的に感じていた。

「(セイバー。彼女さえよければ同盟を結んでしまいたい。君はどう思う?)」
「(構いませんよ。貴方ならそうすると思っていましたから)」
「ああ……そうだね。君さえよければ、今日以降も「よろしく」したいんだけど。どう思う?」
「……同盟の誘いってことでいいの?」
「そう取ってくれても構わないよ」
「キャスターはどう思う?」
「ガイアが私にもっと輝けと囁いている!!!!(私はいいと思う)」
「そっか……じゃあいいよ! 同盟締結ってことで!」

差し出された銀河の小さな手をハリーが優しく取る。
そうして―――風の主従と、宙の外より舞い降りた女達の同盟がここに誕生した。

この二組がこれからどんな争いに挑むのか。
それはまだ、誰にも分からない―――

  • 最終更新:2020-03-08 09:26:07

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