プロローグ 3

(一体、何が起こった……!?)
レイシフトルームで起こった爆発。煙と炎に包まれたあの場で、彼女……センパイの手を取った瞬間、機械的なナレーションと共に視界が白一色に覆われた。
目を開けるとあの場とは全く異なる光景がそこにはあった。
(此処は……どこだ?センパイや他のマスター候補達はどうなった……?)
疑問を抱えながらも現状を確認するために周囲を見渡す。
(建物の造りからして、アメリカの都市部ってところか……?)
といっても、建造物の大半が倒壊しており、荒廃した街並みからは人の気配を感じ取ることは出来ない。
何より気になるのは、一部が埋没し、クレーターのような凹凸が出来上がった地面。まるで巨大な物体が落下してきたかのような状態だ。
とにかく、目覚めたその地が既に都市として機能していないことは明白だった。
周囲を見回り、他に人がいないかを確認する。
するとガサッ、と少し先の瓦礫の方から音がするのが聞こえた
「誰かいるのか?」
俺の声に反応して現れたのは20歳前半ぐらいの女性だった。
肌は生気を感じさせぬほど白く、目の焦点はあっていないように見える。
女性はふらふらとした足取りで、こちらを目指し、歩いてきた……そして
「────────ッ!!」
「なッ!?」
声にならない絶叫を上げ、俺に向かって飛び掛ってきた。
俺は抵抗するが女の力は異常な程強く、どれほど力を込めてもまるで振り解けそうにない。
「──────ッ!────ッ!!」
「クッ、女性に使うのは気が引けるけど……ナッ!!」
女に抵抗する腕の代わりに自由な状態の脚を使って、女の脚を引っ掛けてバランスを崩す。
ダンスの一環として学んでいた武芸の応用だ。
直接蹴り飛ばしたわけではないとはいえ女性にこういった技を使うのは本来ならば躊躇うところだが、そうも言ってられない状況だった。
それから女性が突然の転倒に混乱しているうちに急いでその場から走り去る。
一先ずはここではない場所で落ち着いた方が良さそうだ。
逃げてからしばらくして通信が入っていることに気付く。
『こちら、カルデア管制室!聞こえる者は応答せよ!繰り返す。こちら、カルデア管制室!』
つい最近聞いた声。俺の自室で整備作業を行っていた男の声だ。
「その声、ナウマンか!?」
『そういうお前はフェリーペか……!なんでそんなとこにいるんだ。自室に籠ってろって言っただろうが……』
驚きつつもあくまで冷ややかな声で返すナウマン。
「それについては悪かったと思ってる。それより此処は何処なんだ?』
俺の質問にナウマンは少し沈黙した後に応え始める。
『カルデアが「魔術」と「科学」を用いて、人類の未来を観測している……って話は既に説明を受けているな?』
「あぁ、大体の話は説明を受けてる。それで、その話がどうこの状況と繋がるんだ?」
人類の未来を保証するのがカルデアという機関らしい。俺達マスター候補はその為に必要な適性を持っているから集められたという話だ。
『何故、未来を観測し、保証する為にレイシフト適性が必要かといえば、それはレイシフトによる干渉によって人類の絶滅を防ぐ為だ。』
レイシフトによる干渉、人類の絶滅よくわからん言葉の羅列に頭が混乱してくる。
『有り体に言ってしまえば時間旅行――タイムスリップの類だ。人類絶滅の要因、人類史における揺らぎであり歪み、俺達はそこを特異点と呼んでいるが、それは人類史の過去に発生した異常だ。ならば過去に飛んで正すのが手っ取り早いって話だ。』
「よくわかんなかったけど、つまり俺達は現在ではない何時かに飛んでいくことができるってことか?」
それならば、納得出来る点もある。この見慣れない風景はレイシフトとやらで飛ばされた場所ということなのだろう。
『無論、カルデアの魔術、そして科学的な機材あってのことなんだがな……お前はどういうわけだか、レイシフト用のコフィンも使わずに成功したらしい。』
「レイシフトに成功したってことはやっぱり此処は2015年のカルデアではないってことか……話の振り出しに戻るけどそれじゃあ此処は一体何処なんだ?」
『そこは我らがカルデアが最初に発見した特異点。2010年代のアメリカの都市、スノーフィールド。』
『本来交わることの無い歴史が干渉したことで生まれたスノーフィールドの異変をカルデアは人理における縦軸と横軸のT字路ということから特異点Tと名付けた。』
『お前達、マスター候補が攻略すべき特異点だとして準備してきたんだが、結果はこの通りだ。』
本来であればマスター候補達が総出で向かうべきであったはずの場所に爆発の混乱に巻き込まれて1人で来てしまったらしい。
「俺がこの場からカルデアに戻るにはどうすればいい?」
『その特異点の修復……ってのは難しいだろうな。この場に残ったスタッフはそう多くはないが、俺を中心として残ったスタッフでなんとかできないか試してみるが……俺は科学はともかく魔術はからっきしだからな。時間がかかる。先ずはその場で生き残ることを優先してくれ。』
この場には俺しかおらず、此処には少なくとも人を見ると襲いかかってくる敵がいるわけで……なかなか無茶を言ってくれる。
しかし、悲観ばかりしていては仕方ないと立ち上がろうとした瞬間、ナウマンの焦りを帯びた声が通信を介して聞こえてきた。
『敵性反応確認!気をつけろ、フェリーペ!近くにいるぞ!』

姿を現したのは片目に眼帯を付け、刀を携えた女性だ。
先程の女性と同じ様に肌は白く、瞳も虚ろだが、口元は僅かに歪んでいる。
身を引き締めながら、相手の様子を伺う

──先程の女性よりも、強い。
純粋に得物を持っているからというだけではない……多少武芸を嗜んでいたこともあるからこそ、その相手の佇まいが達人のそれであると直感させる。
仮に躊躇うことなく女性に全力で迎え撃ったところで俺は一瞬で切り刻まれてしまうだろう。
俺はなるべく背中を見せないように駆けだす。女もそんな俺を追って刀を振り回す。
必死に一撃を回避する。しかし、初撃を回避したとしても終わりではない。
次はない、と言わんばかり女が微かに口角を上げて刀を振り下ろす。
あまりにも素早い剣速に回避が追いつかない。女の刃が俺の胴を捉えようとした、その瞬間。
俺と女の振るう刃との間に壁ーーいや、盾が挟み込まれ、それにより一太刀は防がれた。
そして、盾の持ち主であろう武装した少女がこちらに駆けつけ、女と相対する。

(誰だ……!?味方、なのか……?)
何者かは分からないが、少なくとも俺を凶刃から救ってくれた少女を見やる。
白骨を思わせるような白い鎧。黒い十字の盾。盾の中央部には灯火が灯されている。
特徴的な武装が先ず目につくが、しばらく眺めていると、他にも気になる点がある
背中の方へ長く結ばれた三つ編み。その両手で支える盾に対して小さな体躯、見覚えをあると感じてしまう。
そして……
「大丈夫か、後輩?」
初めて出会った際と同じ言葉で俺は盾の少女の正体に初めて気付く。
「セン……パイ、なのか?」
俺の「センパイ」という呼び声に少し嬉しそうに笑った後、俺を救ってくれた英雄(しょうじょ)は口を開いた。
「自己紹介がまだだったな後輩……私はメンテー・プルトランプ。」
「君の英霊(サーヴァント)だ!」

Fate/Grave Order ──特異点T 埋没滅亡都市 スノーフィールド──

  • 最終更新:2019-02-25 23:57:14

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード