バレンタインss-fromギネヴィア

ギネヴィア
「………。
………。」

>『あれ?ギネヴィア?』
>『何してるんだろう?』

ギネヴィア
「あっ……マスター。」

>『手に持ってるそれって……』

ギネヴィア
「はい、バレンタインのチョコレートです。」
「なんでも、親しい方や愛する人に贈り物をする日だとか。
女性はチョコを贈るのが普通と聞いたので……。」
「エミヤさんやブーディカさんに教わりながら作った次第です。」
「もちろんマスターの分もございますよ?」

>『けど、結構多いような気が……』
>『アルトリアやランスロットにも渡すの?』

ギネヴィア
「それは……。」

マーリン
「おや、ギネヴィアじゃないか。
ずいぶんと久しぶりだね。」

ギネヴィア
「……マーリン。」

マーリン
「マスターにはもうチョコは渡したのかい?
あ、それと僕の分のチョコもあったりする?」

ギネヴィア
「え、ええ。マスターにはこれから渡すところだったの。
もちろんあなたの分もありますよマーリン。」

マーリン
「なら、先にマスターに渡すといい。
僕の分は後でかまわないさ。」

ギネヴィア
「……珍しいわね。昔なら『じゃあ先にいただくとしよう!なあに、毒味だよ毒味。別に食い意地を張ってるわけじゃあないさ。』」
「とかなんとか言い訳して我先にと食べてたのに。
少しは丸くなったのかしら?」

>『このロクデナシが丸くなるわけない』
>『あのマーリンですよ?』

マーリン
「ちょ、2人ともひどくない!?
今回はちゃんとした善意で言ってあげてるのに!」

ギネヴィア
「……まあ、どちらでもかまいません。
ともかくマスター。こちらをどうぞ。」

>チョコ礼装のイラストが出る音<

>『うわ、すごい凝ってる!?』
>『こんなの貰っていいの!?』

ギネヴィア
「ええ、もちろんです。」
「貴方は、たった1人で人理を守る為の戦いをしています。」
「それはとても苦しく、辛く、他の者がいなければ耐え難いものでしょう。」
「でも、だからこそ。」
「貴方には、それに見合うものがなければいけません。」

マーリン
「…………。」

ギネヴィア
「ですから、これは私からマスターへのご褒美……というと少々大仰かもしれませんが。」
「ともかく、これは私からマスターへのバレンタインの贈り物です。」

>『そういうことなら……』
>『ありがとうございます!』

マーリン
「あ、そういえば。
君の部屋の前で清姫がいるのを見かけたけど……。」
「なんか面白いことになりそうだったから放っておいたけど、問題なかったかい?」

>『何でそれもっと早く言わないの!?』
>『やっぱりマーリンはロクデナシだね!?』

マーリン
「……ふう。
ようやくマスターがいなくなったね。」
「それで?
さっきは何をしていたんだい?」

ギネヴィア
「…………。」

マーリン
「まさかとは思うけど、アルトリアやランスロットに合わせる顔がないとでも思ってる?」

ギネヴィア
「それ、は……。」

マーリン
「それは見当違いもいいところだよ。
ギネヴィア。」
「君がどうしようと、君が何をしようと。」
「アルトリアが王になった時点で、あの結末は決まっていたんだ。」

ギネヴィア
「でも、それは……!!」

マーリン
「確かに君とランスロットの逢瀬がなければ、ブリテンの滅びはもっと緩やかなものになったかもしれない。」
「でもそれは結果論だ。君とランスロットの逢瀬があろうとなかろうと、滅びは必定だった。」
「その点においては、僕は君に謝らなければならない。」
「僕は……いや、僕とウーサーは君から人生(幸せ)を奪ったんだ。」
「君に詰られても文句は言えない。」

ギネヴィア
「……それを貴方にして、一体どうなると言うのですか?」

マーリン
「ギネヴィア……。」

ギネヴィア
「今、貴方を詰ったところで何があるというのです?」
「確かに原因は貴方とウーサー王かもしれません。
ですが、崩壊のきっかけを作ったのは私です。」
「私がもっと強かったのなら、私が人ではなく機械になれたのならーーーーーー」

ギルガメッシュ
「フン。
ずいぶんと下らんことをほざいておるな雑種?」

ギネヴィア
「貴方は……。」

ギルガメッシュ
「彼奴に限って、そのようなことはあるまいよ。」
「そも彼奴は貴様に対して一度でも、そのようなことを思っていると思うのか?」

ギネヴィア
「……。」

ギルガメッシュ
「ありえんだろうな。あれほど高潔な魂を持つ彼奴が、貴様程度の陰気な女を見下すなぞ。」
「まあ、雑種の貴様がどうなろうと我の知ったことではない。」
「つまるところ貴様が彼奴に対して、いや……彼奴とあの騎士に対して劣等感を抱く限り」
「貴様に安息など訪れはせんだろうな。」

マーリン
「英雄王……。」

ギルガメッシュ
「ではな、花の魔術師。貴様もあまりこの女に関わるべきではないぞ?」
「何の因果かは知らんが、この女の天命はどうにも『悲劇』に行き着くらしい。」
「この雑種の行く末になど我は興味などないが、この女に付き合うつもりならばーーーーーー」
「貴様がヒトにでもならん限りは理解しきれぬだろうさ。」

マーリン
「……。」
「全く、彼はどこまで見ているのやら。
これじゃあ、僕の商売あがったりだ。」

ギネヴィア
「………ねえ、マーリンーーーーーー」

マーリン
「それじゃ、僕もここで失礼させてもらうよ。
チョコは……うん、これがいい。」

ギネヴィア
「あ、それは……。」

マーリン
「失敗作、だろう?
君も決して料理が上手ではなかったけれど。」
「それでも、これには君の心がこもっている。
たとえどれほど歪なものだとしてもね。」

ギネヴィア
「……。」

マーリン
「大丈夫。
君の想いは彼らにきっと伝わるさ。」
「それにね、これだけは断言出来る。」
「君がどれほど歪で矮小な存在だったとしても。
2人は君のことを愛しているってね。」
「じゃ、後は頑張りなよ。
君らしくやれば、何も問題ないさ。」

ギネヴィア
「マーリン……。」
「……。」

エミヤ
「おや。」
「こんなところで何をしているのかな、ギネヴィア。」

ギネヴィア
「エミヤさん……。」

エミヤ
「彼女とランスロット卿にはもう渡したのかい?
渡したのなら、教えた甲斐があったというものだ。」

ギネヴィア
「……いえ。
まだ、その、心の準備が出来ず……。」

エミヤ
「……なるほど。」
「では、少々不躾だが私から君にアドバイスをしよう。」

ギネヴィア
「アドバイス……ですか?」

エミヤ
「ああ。」
「なに、そう難しい話じゃない。」
「要は直接彼女達に面と向かって話せない、ということだろう?」
「ならば、夜中に彼女達の枕元にでもチョコを置いてくるといい。」

ギネヴィア
「……そうですね。」
「すみません、ありがとうございます。」
「……貴方は優しいのですね。
私のような女に優しくするなど、何の利もないでしょうに。」

エミヤ
「……生前、君に似た性格の女性と縁があってな。」
「あまり相談に乗ってやることも出来なかったから、ある意味では彼女への贖罪なのやもしれん。」

ギネヴィア
「そう、なのですか……。」

エミヤ
「では、私はここで失礼しよう。
……頑張ってくれ、ギネヴィア。」

ギネヴィア
「……ええ、ありがとうございますエミヤ。」

ーその夜ー

ギネヴィア
「……。」

……やってきた。
とうとう彼女の部屋の前に。
エミヤさんと別れた後、ガウェインやトリスタン達にチョコを渡してきた。
反応は様々だったけれど、それでも彼らが喜んでくれているのは嬉しい。
けれど。

ガウェイン
「そういえば、ランスロット卿にはもう渡したのですか?」

ギネヴィア
「ええと、それはーーーーーー」

モードレッド
「ははは、ないない!
だって無駄に生真面目なギネヴィアだぜ?」
「どうせ生前のことを引き摺って、ウジウジしてるだけで渡せてるわけねえだろ!」

ガウェイン
「……モードレッド、口を慎みなさい。」
「相手が知己であるからといって、何を言ってもいいわけではありません。」
「特に王妃の場合はーーーーーー」

モードレッド
「あー、うるせえうるせえ。
俺はただ事実を言っただけだぜ?」
「それに後悔だ何だなんて、今更したって遅いってえの。」
「それなら少しでもテメエのやったことに向き合うのが道理だろうが。
けど、コイツはそれすら出来やしねぇ。」
「結局、我が身可愛さで"何もしないことが最善だ"とでも思ってんだろ?」

違う、と叫びたかった。
そんなこと思ってもいないし、何よりもモードレッドだって立場は同じはずなのに。
どうして、彼女はああもあっけらかんとしていられるのだろう?
私は崩壊のきっかけを作ってしまった。
だが、崩壊させたのは他でもない叛逆の騎士(モードレッド)だ。
なのになぜ。
彼女は罪の意識を感じさせないのだろうか?
おかしい、おかしい、おかしい、オカシイ、オカシイ、オカシイ、オカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイーーーーーー!!

そんな羨望(憎しみ)に頭を支配されて。
気が付けば、彼らの元を離れていた。

ギネヴィア
「わた、しはーーーーーー」

なんて情けない。なんて惨め。なんて滑稽。
これではモードレッドの言った通りではないか。
私はただ、逃げているだけだ。
でも、一体何から?
私は一体。何から逃げているんだろう?

ギネヴィア
「……。」

霊体化して彼女の部屋に入る。
彼女らしい、簡素でこれといった彩りの無い部屋。
それらしいものがあるとすれば、あのライオンのぬいぐるみくらいか。

ギネヴィア
「これを置いて、と……。」

そっと、アルトリアを起こさないようにチョコの入った箱を置く。
もうじきバレンタインも終わる。
朝になれば王は夢から醒め、枕元の誰とも分からぬ贈り物を手に取る。
きっとその顔は、驚きに満ちていて。
そんな顔を見れたなら、私も少しは変わるだろうか?

ギネヴィア
「なんて、それは甘い夢物語よね……。」
「あなたもそう思うでしょ?
アルトリア。」

アルトリア
「……気づいていたのですか、ギネヴィア。」

ギネヴィア
「あのアーチャーのことですもの。
きっと貴方に伝えていると思ったわ。」
「それに、外にはランスロット卿も待っているのではなくて?」

アルトリア
「……ギネヴィア、私はあなたにーーーーーー」

ギネヴィア
「ダメよ、アルト。」

アルトリア
「!」

ギネヴィア
「ダメよ、それは言ってはいけないわ。
それを言ってしまったら、私はきっと私を保てなくなってしまう。」
「それにね、アルト。」
「アルトがそんなことを言わなくても、私のことをランスロット卿と一緒に気にかけていたことは知ってるわ。」

アルトリア
「……一体誰から聞いたのですか?」

ギネヴィア
「マリーよ。マリー・アントワネット。」

アルトリア
「マリーが、そんなことを……。」

ギネヴィア
「でもね、アルト。
私が本当に欲しいのは……」
「あなたとランスロットが笑って過ごせることなの。」

アルトリア
「ギネヴィア……。」

ギネヴィア
「私はそろそろ行くわ。
ランスロットにもチョコを渡してあげないと。」
「……おやすみなさい、アルト。」

アルトリア
「……ええ、おやすみなさい。ギネヴィア。」

ギネヴィア
「それとーーーーーー」


「ハッピー・バレンタイン。」

  • 最終更新:2020-03-24 10:26:08

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