ダイジェスト版:極刑円卓領域 ■■■■・■■■■ 後編

『四月の愚者……シャルル九世によって断罪された少女だと……?』
エウラリアオルタ改めエイプリル・フールの言葉はカルデアの一行に強烈な衝撃を与えた。
「だが、それは本来存在しない嘘の類だったはずだ……」
シャルル九世は知っての通り実権を握れるほどの年齢ではなかった。故に独断による大量処刑も存在しなかったはずだが……。
「えぇ、でもでまかせの嘘が時として真実となる──それがエイプリル・フールでしょう。言うなれば私は聖杯の魔力によって人類が積み上げてきた“嘘”という概念が外殻を得た存在というわけ」
エイプリル・フールは得意げに説明したが、その根底にはドス黒い執念が渦巻いていた。
「私という悲劇さえ後世の人間の娯楽に過ぎなかった。故に私は世界に復讐する。私という嘘が埋もれるほど、世に満ちた処刑制度(システム)を断罪すると決めました」
それは虚構がそれを生み出した現実に対して起こした叛逆である。
「その為に、無辜の民が犠牲になってもいいと言うんですか!?」
エウラリアがエイプリル・フールに詰問するが……
「えぇ、当然でしょう。こんなもの、ただ一日だけの気晴らしに過ぎないのだから……」
返ってきたのは意外過ぎるほど素っ気ない、冷めた答えだった。
「一日だけ……?」
「そう、如何に聖杯の力といえど私という存在を繋ぎ止められるのはただ一日だけ、24時間の猶予が赦される代わりに、私の先には何も存在しない。破壊も、創造も続かないの。」
だから、とエイプリル・フールは続ける。
「私は一日で世界を完結させましょう。魔弄王が人理消却を以て、瞬く間に人を滅ぼしたように」
「そんなことはさせません。たとえ一日後に元に戻るとしても……貴女の非道を見過ごせません」
「それは誰のための義憤?民のため?それとも貴女自身の願いのため?」
「……それは」
「早く答えを出さないと……その前に私が世界を滅ぼしちゃうよ?」
そう告げて、アヴェンジャーはその場を立ち去ろうとする。
「待てっ!?」
「次はこちらも“円卓の騎士”を連れて相手をしてあげる。まぁ、今日中には会えるでしょう」
フェリーペ達の制止を無視して、アヴェンジャーは消えていった。
「空間転移……ただ一日のみならば魔法級の力も発揮出来るというわけか……」
ひとまず一行は王城に撤退したのであった。

「帰ってきて早々悪いが、密偵として送り出した影の軍団より報告が入った。『極刑円卓』の拠点を突き止めたとのことだ。」
「もう慣れたが、忙しないな……」
『何せ、一日しか持たない特異点だ。仕方ない』
「敵対勢力はオルレアンに集中しているらしい。奇しくも聖女に縁のある地だな」
決戦の地はオルレアン。今度はこちらから総戦力で襲撃を仕掛けるとの事だった。

太陽王の報告を受けた後にナウマンからフェリーペに向けて通信が入る。
『フェリーペ、よく聞け。今までの特異点を人類史という巻物にできた染みに例えるなら、そこは染み付いてすらいない……上に被っただけの埃みたいなもんだ。』
『風に吹かれて散ってしまうような脆い歪み。お前らが戦わなくても、恐らくは明日には虚数事象として処理され、跡形もなく消え去る。それでも、戦うのか?』
「あぁ、これは俺達が選んだことだから……中途半端に投げ出したりしたくは無い。」
「それに、今回は負けたくない相手もいる」
ロベスピエール、彼に勝つことが擬似サーヴァントとしてのメンテーの一つの終着点とも言える。
『七つ目の特異点に、魔弄王との戦いも控えている。本来は止めるべきなんだろうが……乗り掛かった船だ。最後までサポートに徹するよ。ミケランジェロ、お前もしっかりやってくれよ』
「ふん、何故俺が……。まぁ、しかしお前達が手のかかる奴等というのも事実だ。俺の才能を貸してやる。好きに使え」
これまでの旅路で絆を深めたカルデアは第陸特異点の最終決戦に満を持して望む。

「エウラリア、大丈夫か?」
決戦前に各サーヴァントに最後の協力要請を行っていたフェリーペはアヴェンジャーとの接触で動揺したエウラリアであった。
「は、はいっ!ま、マスターですか……すいません、少し考え事をしていて……」
「アヴェンジャーに言われたこと、気にしてるのか……?」
「……はい。マスターはわたしの逸話をご存じですか……?」
「あぁ、少しだけ」
聖エウラリア。キリスト教徒迫害により、わずか13歳で殉教した聖人。
ローマ兵からの拷問にも屈することなく信仰を守り抜いた、敬虔な信徒。
「でも、わたしが守り抜けたのは信仰心“だけ”でした。他の守護聖人の方々と違って、わたしは誰一人として守れなかった。だからわたしは『自分以外の誰かを守りたい』、そう願ったんです。」
でも、とエウラリアは続ける。
「わたしはこの特異点で戦うことで自分の願いを叶えようとしたのかもしれない。自分の願いのためにこの国の人達を利用したのかもしれない。わたしはエイプリル・フールと変わらない。そう彼女に言われて……わたしは否定できませんでした。そんなわたしが彼女に勝つことが出来るんでしょうか……」
エウラリアは葛藤する。相手が自身に近しい経歴を持つが故に彼女の言葉を否定出来なかったのだ。
「エウラリアは今、どうしたいんだ?」
「わたしは……今もこの国のみなさんを守りたい。それだけは嘘じゃありません。」
「なら大丈夫だ。俺もセンパイも、シャルルや他の皆だってエウラリアに守ってもらってきた。アヴェンジャーが好き勝手に暴れてるならエウラリアだって好きに守ればいいんだよ」
「そんな我儘が、ゆるされるんでしょうか……?」
「エウラリアだって13歳の女の子なんだから、それぐらい許されて当然だよ。」
「むぅ、子供扱いされた気がするんですが……でも、ありがとうございますマスター。おかげで吹っ切れました。」
エウラリアは一度頬を膨らませてから、とびきりの笑顔を見せた。
メンテーとエウラリアも持ち直し、遂に決戦の準備は整った。

夕陽の射すオルレアンの地に特異点のサーヴァント達が集結する。
敵は首魁であるエイプリル・フール、『極刑円卓』のサーヴァントが二騎に加え、配下の軍勢。
対するこちらはキールタ、トマス、影の軍団、ルイ=デュードネ、エルヴィス、ミケランジェロ、エウラリア、メンテーの八騎だ。
キールタとトマスが軍勢を請け負い、メンテーはロベスピエール、エウラリアはエイプリル・フールに向けて駆け出す。
フェリーペもまた二人を支援のため同行しようとするが……。

「──『耽楽、喝采、処刑場より(リディキュール・オブ・ジ・アノニマス)』」

不意に闇から聴こえた声によって、フェリーペの視界は遮られた。


(……ここは、俺はいったい……。敵サーヴァントの攻撃を受けたのか……。)
フェリーペの意識が覚醒し、視界が晴れると其処は……
「処刑場……か?」
数多の処刑道具、見渡す限りの観覧客……そこはまさしくと言った感じの風景です。
「ご名答です。そこは“貴方の”処刑場ですよ」
闇から聴こえた者と同じ声がフェリーペへと届く。目を向けて見ればそこには澱の溜まったような笑顔を侍らせた青年が立っていた。
「はじめまして、カルデアのマスターさん。極刑円卓の一騎、アサシン:ジョン・ウィリアムズと申します」
「不意討ちで攻撃を仕掛けてきた割にやけに丁寧だな」
「貴方を殺.すのは私ではありません。私の宝具は対象に『冤罪』をかけるモノ。罪人である貴方を裁くのは、そこにいる『正義』ですよ」
『殺.せ!』『処刑せよ!』『赦すな!!』
アサシンが観覧客達に目を向けると、観覧客達は血走った眼でフェリーペに対する刑の執行を望んでいた。
愉しみの為に処刑を望む、その悍ましい人の性に当てられ、恐怖が身を走る
「くっ、センパイ!エウラリア!!」
「叫んだところで誰も気づきはしませんよ。貴方に恨みはありませんが貴方を落とせば、我々の勝利に近づく。では、サヨウナラ」
刑場に拘束されたフェリーペに向けて『正義』の鉄槌が下されようとした、その時

「おっと、処刑(ソンナモノ)よりももっと良い娯楽があるぞ」

弦を弾く音がフェリーペの耳に届いた。
「エルヴィス!!」
「やぁ、マスター。彼女達じゃなくて悪いが……このおっかない陰鬱な世界にトビキリの音楽を届けに来た……聴いてくれ、『美しき我らの世界(ウィー・アー・ザー・ワールド)』!!」
エルヴィスの音楽が、処刑という娯楽に取り憑かれた人々の心を呼び覚ます。
風景は変わらぬまま、その演奏を以てエルヴィスのステージとなった。
『冤罪の犯罪者』『処刑を望まれた者』という信仰を打ち破られたアサシンはエルヴィスの不戦の在り方を前に力を失う。
「同じ大衆から望まれた者だと言うのに……この違いはなんでしょうね……。つくづく人間は度し難い」
力を失ったことでもはや此処に繋ぎ止められることはなく、消滅していくアサシン。
「今度はこんな形じゃなく、アンタに音楽を届けたかったよ。さようなら、望みに応じた哀しくも優しい紳士」
「こんな形ではなく音楽を……ですか……。処刑以外の見世物というのも、悪くはないかも知れませんね。」
エルヴィスの言葉を受けて、ジョン・ウィリアムズは先程までとは異なる柔らかな笑みを浮かべ、消えていった。

「ありがとう、エルヴィス!助かった!」
「なに、俺は音楽家としての仕事を果たしたまで……って言いたいところだが、ここまでだな」
フェリーペはエルヴィスの方へ駆け寄るが、既に彼の周囲に光の粒子が舞い、退去が始まろうとしていた。
「“この霊基”じゃあ聴かせられるのはこの一曲だけらしい。君と彼女達の行く先を見届けられないのは寂しいが……君が人理消却に立ち向かうならば、またすぐに出逢えるはずだ」
メンテー達にもよろしく、とギターを片手にエルヴィスは告げた。
「ありがとう、キング・オブ・ロックンロール。アンタの音楽、ちゃんと心に響いた」
自身を送り出すエルヴィスのギターを背に受けて、フェリーペの元へと向かった。

術者を失い、消失しかけの固有結界の中でフェリーペは迷っていた。
何しろ知らない世界な上に、導き手(サーヴァント)もいないのだ。
「お困りのようですね、フェリーペ・ジョージ・デ・サント。道案内をしましょうか?」
そんなフェリーペの前に現れたのは現代人そのものなスーツ姿の男性であった。
「お前は……誰だ。いや、何処かであったことがあるような……いや、でも」
不気味な容貌、初めて出会ったはずなのに起こる謎の既視感……何から何まで怪しい男だった。
「私はどこにでもいて、どこにもいない、誰もが見たことがあり、誰もが私を知らない、夢の世界を渡る者です。人々は私を『夢に出てきた男(ディスマン)』とそう呼びます。貴方も気軽にそう呼んでください」
This Man(ディスマン)。近代に発生した都市伝説。何人もの人間が夢でその姿を見たと噂された存在。
現代の夢魔とも言える存在が語りかけてくることに警戒するフェリーペだが……
「警戒せずとも、私の力は夢を渡る、ただそれだけです。危害を加えたりは出来ません。戻るまでの道すがら、少しお話をしませんか?」
あくまで機械的に無感情に告げるディスマン。フェリーペは警戒しつつも、闇雲に探るよりも彼の導きに従うべきだと判断し、その後に続いた。
「アンタはなんでこんなところに……?」
「エイプリル・フールか、或いは魔弄王の性質が私に近かったのでしょう。それによって私はこの世界(ユメ)に引き寄せられました。人間が私を見るように、私も人間を見てきました。貴方のこともずっと見てきましたよ。」
「なんで、俺に協力してくれるんだ?」
「純粋に興味が引かれたからです。私とは異なる手段で世界を渡る者。だと言うのに私よりも大胆に干渉を続けるもの。何故、先程もこれまでの旅路も──その前からずっと人類の醜さを知っていながら、尚も進むのですか?」
その言葉を受けたフェリーペの脳裏に去来するのは先程の処刑場での光景や特異点で見た惨劇の数々。そして、最愛の弟の死に様だった。
「そりゃあ、俺だって人類の全部を信じられるわけじゃない。現に俺は人の身勝手な欲望によって奪われたモノがあった。世界の全部を憎んだこともそりゃああったけど……」

「でも『人類(セカイ)は醜い』だけで切り捨てたくなかった。だって俺が大切に思っていたモノもそこにはあった。大切だと思えるようになるモノにこの世界で出会えた。だから俺は……この俺の選んだ道を進むんだ。」
ディスマンは黙った。フェリーペの答えに満足したのか、それとも不満だったかも分からない。
ただ、静かにフェリーペを導き、メンテー達の背が見える場所まで連れてきた。
「フェリーペさん。私とは異なる夢の放浪人。私は貴方と……貴方の紡ぎ出す物語(ユメ)を陰ながら応援していますよ」
いずれまた会いましょう、とだけ告げるとディスマンはそのまま消えていった。

「後輩!!無事だったか!」
帰ってきたフェリーペをメンテーが受け止める。
「あぁ、センパイ。でもエルヴィスが俺を助けるかわりに退去した。」
「そうか、キチンと礼を言えなかったのは心残りだが……」
しかし、エルヴィスが去り際にジョン・ウィリアムズを退けたことで残る極刑円卓は二騎のみとなった。
「今度は私が気張る番だ。頼ってもいいか、後輩?」
「あぁ、センパイのバックアップは任せてくれ」

「粛清を……死を以て、吊られた彼女への手向けとする。彼女の死に尊厳を!!」
ロベスピエールが宝具『混合旅団(アマルガム)』を展開する。
無数の銃兵、擲弾兵、更には4問の6ポンド砲が召喚される。
弾丸の雨が戦場に降り注ぐ。その中にメンテーは盾を以て飛び込んでいく。
『混合旅団』には新兵同然の者から熟練の兵士までが召喚される。戦慣れした兵がメンテーの道を阻む。
「っらアアァ!!」
しかし、メンテーとて数々の特異点を擬似サーヴァントとして乗り越えてきた力がある。強引に盾で障害を押し退け、弾丸を弾き、砲弾を逸らす。
メンテーの執念が指揮官であるロベスピエールまで迫った。
「後輩!!」
「令呪を以て命ずる!ロベスピエールに向けて跳べ!!」
メンテーの叫びに応じて、フェリーペの令呪が輝く。空間跳躍によってロベスピエールの手前まで辿り着く。
「ッッ負けぬ!自由を民に、革命をこの手に!」
ロベスピエールは銃では間に合わないと判断し、サーベルを抜き放つ。
盾と剣、二者が交錯する。
ロベスピエールのサーベルがメンテーを捉えるより僅かに早く、メンテーの盾がロベスピエールの霊核を打ち砕いた。
「私の勝ちだ……ロベスピエール!」
「ふっ、かのシュヴァリエにも劣らぬ希薄……何者かと思えば、私の力を得た擬似サーヴァントとはな……だが、人の身でありながら、我が亡霊に屈することなく英霊である私を穿つその様は……紛れもなく強者を討つモノ……革命の兆しだ。」
「ここまで戦えたのは貴方の霊の力あってだ。だから、これ以上特異点で貴方に非道を重ねるのを見逃せない。」
「非道か……確かにそうだ。だが、私はあの悲劇の少女を見逃すことが出来なかった。故にその復讐に加担した。生憎と革命までは得意だったものでな……」
願わくば、彼女に自由と救いを。ロベスピエールは自身を継ぐ少女に見送られながら、願いを託し、消滅していった。
最後の『円卓の騎士』は破れ、ついに残すは『極刑円卓の主』エイプリル・フールのみとなった。

「あら、結構残っているのね……まさかここまで辿り着くなんて」
追い込まれたというのにエイプリル・フールは何処吹く風と言った雰囲気で佇んでいた。
「えぇ、先程の答えを持って来ました」
エウラリアが一歩前へ踏み出す。その顔つきは数刻前にエイプリル・フールに立ち塞がった者とは別人のようだった。
「へぇ、いい顔になったね。聞かせて貰おうかな。答えってやつを」
エイプリル・フールはその変化に興味をひかれたのか、少しばかり喜んだ表情で彼女と向き合った。
「はい。やっぱりわたしは誰かを守りたい。その心に嘘はつけません。なによりわたしの守りたいという願いを受け入れてくれるみんながいるから」
「嘘はつけない……ね」
「えぇ、わたしはこの特異点の皆さんを……そして、あなたの尊厳を守って見せます!」
「……私を!?」
突如、自身のことを振られたアヴェンジャーから抜けた声が出る。
「そう、あなたの物語は確かに悲劇だったかも知れない。虚構であったかも知れません。けれどそれだけじゃなかった。あなたの死を悼んだ人がいた。あなたの冥福を祈った人がいた。だからこそ、あなたの世界(エイプリル・フール)を哀しい復讐だけで終わらせたりしない!」
その言葉にフェリーペも応じる。
「あぁ、お前の気が晴れるまで……俺達が付き合ってやる。だから、人理を滅ぼさせたりしない!!」
二人の声に対してエイプリル・フールは笑った
「ハハハハハッ!こんな痛快な返しが返ってくるとは思わなかったわ!いいでしょう!なら、世界に代わって貴方達に相手をしてもらいましょう。貴方達を滅ぼし尽くしたら……私もその後消えてあげる!」
エイプリル・フールの周囲の魔力が歪む。聖杯が起動し、魔力が収縮する!
「『此処より新年は始まり、虚より真実は生まれ落ちる(エイプリル・フールズ)』!十三拘束強制解除(パージ・サーティーン )、『最果てにて輝ける槍(ロンゴ.ミニアド)』 !!」
聖槍に束ねられた光の奔流が解放される。しかも……
『この反応は……宝具による霊基改変により『個体増殖』と『投影魔術』を獲得……!アヴェンジャー及び聖槍の反応が13倍に……!不味い、何とかして防げ!』
13騎に増えたエイプリル・フールと13本に増えた聖槍。
世界を滅ぼしかねない力が、ただフェリーペとエウラリアだけに向けて放たれる!
「聖槍、か……ならばこちらも出し惜しみ出来まい!この指はかの百卒長(ロンギヌス)の槍と同じモノ 『至聖こそ神の真理(へーレム)』!!」
「ふん……これこそは我が才覚の極地!大理石の意思を此処に示す……『神の如く(ホモ・ディヴィヌス)』!!」
トマスの指から放たれた赤線とミケランジェロの削り出した大理石の巨像が聖槍の一撃を食い止める……が、それも一瞬のこと、通常の十三倍の威力を伴った聖槍の一撃が全てを砕き進む。

「真名開帳──私は帝国の門の番となる」
だが、その一瞬が希望を繋いでいた。
それはロベスピエールと対面したことで、遂に真名開放に至ったメンテー・プルトランプが辿り着いた絶対防御。
「それは平等と不可侵を保証する安息地──顕現せよ、『いまは眠れ死者の帝国(カタコンブ・ド・パリ)』!」
英霊(ロベスピエール)と平民とを分け隔てなく納骨した、死後にて何者にも侵されぬ果たされた平和と平等、その象徴たる納骨堂(カタコンブ)。
如何に聖槍の輝きを以てしても、それを破壊することは叶わない。
「エウラリア!今だ!!令呪を以て命ずる──彼女の尊厳を守り抜け!!」
令呪によるブースト、それによって一時的に聖槍は本来の担い手と同等の威力まで引き伸ばされる。
「くっ、ならば……もう一度『此処より新年は始まり、虚より真実は生まれ落ちる』を使って防御を……」
「そうはさせん!」
エイプリル・フールが宝具を使おうとするが、それを遮る声が響く。若き王 シャルル九世のモノだ。
「国王命令だ。貴様の説話上、私の命令には逆らえまい早く、行け!エウラリアよ!汝の願いを果たす時だ!!」
ここまでの旅路で培ってきた者達に背中を押され、エウラリアは突き進む。
「聖槍、抜錨!!これは……世界(あなた)を救う為の戦いである!『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!」
聖槍の輝きが四月の愚者に向かって走る。それを本人は何処かで晴れやかな顔つきで受け入れた。
「さようなら、有り得たかもしれない……もう一人のわたし」
「えぇ、さようなら。私の憧れた、成りたかったもう一人の私」
四月の愚者は、悲劇の少女の霊基は消え去り、此処に第陸特異点は終息した。

「ありがとうございました。おかげでわたしは夢を叶えることが出来ました。」
今にも崩れ落ちそうな世界で、エウラリアとの別れの挨拶を交わした。
「こっちこそ、最後まで守られっぱなしだった。ありがとうエウラリア」
「この記憶は座には持ち越せないかもしれませんが……私の力が必要であれば、何時でもまた喚んでくださいね」
少女の笑顔を見届けながら、フェリーペ達もまた帰還する。
時間にしてみれば、たった一日の短すぎる旅路。
それでもきっと、駆け抜けた彼等にとっては忘れることも出来ない、そんな物語。

第陸特異点 虚栄円卓領域 プワソン・ダヴリル 人理定礎:─ ──────定礎復旧

  • 最終更新:2020-11-07 16:49:50

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