ダイジェスト版:極刑円卓領域 ■■■■・■■■■ 前編
場所を移して、エウラリアに自分達が体験してきたこと、そしてこれからの目的を伝えた。
「なるほど、特異点……それに人理消却ですか。あなたたちはそれほど迄に過酷な旅を……」
「あぁ、でも話したとおり色んなサーヴァントに助けてもらった旅だったよ。それで、今度はエウラリアの方からこの特異点について教えてくれないか?」
「えぇ、わたしが召喚されたのもつい先程なのですが……どうやら、先程のような騎士、そして『極刑円卓』と呼ばれるサーヴァント達が民草と王達を苦しめているようなのです。」
「最近呼ばれたという割には詳しいな……」
「はい、実はあなた方と出逢う少し前に他のサーヴァントと顔を合わせる機会があって……それで詳しい話を聞くことができたんです。」
「なるほど、エウラリア以外にも聖杯によるカウンター召喚がなされていたわけだ。合流したいんだが、そのサーヴァントは今、どこに……?」
「隣街のいたはずですが……わたしも同行してよろしいですか?」
「もちろん!協力者が多いに越したことはないからな!」
エウラリアの協力を得て、他のサーヴァントがいるという隣街を目指すが……
『敵性反応だ!サーヴァントじゃあないが、数が多い!!気をつけろ!』
粛清騎士達とは様相の異なる兵士達がフェリーペ達に襲いかかる。
「この服装、それに銃兵に擲弾兵……この時代の兵士じゃない……サーヴァントの宝具か?」
「コイツらは……ぐっ、私の霊基が、反応して……っ!」
「センパイ!大丈夫か!」
「メンテーさんは私が……、ダメです!数が多すぎて……」
兵士達に阻まれ、メンテーの助けに向かえないエウラリア
絶対絶命の危機を救ったのは二騎のサーヴァント。
「我こそはフィオナ騎士団のキールタ・マックローナン。義を見てせざるは勇無きなり!これよりカルデアに加勢する。」
「私が信じ、従うのは『あの御方』のみ……。だが、この地での暴虐を見過ごすことも出来ぬ。手を貸そう」
セイバーとランサー、二騎の加勢によってなんとか敵性兵士を追い払うことに成功する。
「どうして、彼等が此処に……」
「アンタ達がエウラリアの言っていたサーヴァントか……しかし、なんで俺達のことを」
「此処に召喚されて間もなくのこと、『ある男』からの忠告を受けてな。盾を持った乙女のサーヴァントとそれを連れたマスターがこの地に現れる、と」
「そこの騎士はともかく、私は真偽を疑ってはいたが……、粛清騎士の勢力と戦っているということはまず間違いないだろうと思ってな。」
「その『ある男』ってのが誰なのかは分からないが、話が早くて助かったな後輩。それにしても、あの軍勢に対して抱いた……あの感覚は一体」
メンテーは戸惑いながらも、一行は次なる目的を定めようとしていた。
『まず、この特異点では三つの勢力が存在する。ひとつは民を虐げ、王に反旗を翻す粛清騎士の勢力。もうひとつはそれに対するカウンターとして呼ばれ、王都を守護する王政側のサーヴァント。そして最後がエウラリアやお前達のはぐれサーヴァント。この認識であってるか?』
「そういう話だと聞いている。」
「なら、王政のサーヴァントとは組めるかもしれないのか?」
「だが、王都の警備は厳重だ。不用意に近づけば敵と間違われて、退治されかねん」
「でも、話し合える可能性もあります。今の私達は敵がどれほど強大かも分かりません。力が必要です」
「危険を冒して王都に近づくか、今の戦力で粛清騎士を迎え撃つか……俺は騎士だ。そこのマスターの指示に従おう。」
フェリーペは思い悩む。確かに戦力は重要だが、戦闘の機会が増えればメンテーへの負担は大きくなる。先程の出来事を鑑みても不安は避けたいところだが……。
「後輩、私のことは気にするな。君の甘いところは嫌いではないが…私は足でまといにはなりたくない。だから私は私の意思で困難に立ち向かう。理不尽なんてもう慣れっこだしな」
メンテーの言葉にフェリーペは奮い立つ。
「あぁ……ミケランジェロ、エウラリア、キールタ、トマス……、それにセンパイ。王都に向かいたい。力を貸してくれ!」
サーヴァント達は無言で頷き、一行は王都へ向けて駆け出した。
パリを訪れたフェリーペ達、王の元に向かったフェリーペの元に凶刃が迫る
「コイツらは……アサシン、“山の翁”の類じゃない……むしろシャドウサーヴァントに近い。」
漆黒の闇を纏った、幻想──ニンジャが其処にはいた。
「「然り、我等は影。霊基を持った夢想と幻想の集積体──故に、忍びとしての責務を果たそう。王の元に不用意にサーヴァントを近づけさせはしない」」
「待ってくれ、俺達は……!」
「「凌いで見せろ、異邦の者共!!」」
ニンジャもとい影の軍団は連携を活かし、フェリーペを護る四騎を相手に互角に立ち回る。
「よい、影の軍団よ。王命だ、その者共を玉の元へ通すがいい……」
そこへ荘厳な声が響き渡った。その言葉に影の軍団は困惑しつつも、その刃(ジャパニーズサムライソード)を収め、無言でフェリーペ達を王城まで導いた。
「控えおろう。王の御前だ。」
迎えでたのは絢爛豪華という言葉が良く似合う煌びやかな服装の男。
「我が真名は太陽王 ルイ=デュードネ。この地の王たる英霊の一騎よ」
「アンタがこの国の王、なのか……?」
「いいや、今現在においてこの仏蘭西(ワタシ)を統べるのは我(フランス)ではない。我(フランス)は所詮、聖杯に呼ばれたサーヴァントに過ぎぬ」
太陽王の後ろから小柄ながらも気品に満ちた風貌の少年が姿を現す。
「よくぞ参った。私がこの国の国王 シャルル九世である。」
高貴な雰囲気こそ漂うものの、隣の太陽王と比較するのは不憫な程の若き王であった。
『まぁ、この時代なら14歳だからな……即位して四年。まだ実母カトリーヌが実権を握ってた時代だ。無理もない』
ナウマンの通信が耳に入ったシャルルはそれに対して鎮痛の面持ちで返す。
「あぁ、だがその母上は賊共によって討ち取られてしまってな……。」
「庇護を失ったシャルルを我(フランス)とそこのアサシンで護衛してやっているというわけだ」
「おい、王のセリフを取るでない!!というか後輩の癖に態度がでかいのだ貴様は!仮にも従者であろう。」
尊大な太陽王とそれに翻弄されるシャルル。不可思議な関係性の二人のやり取りを一行は呆然と眺めていた。
「とにかく、奴らの狙いは王(わたし)の首だ。私を守るがいい、カルデアとやら」
シャルルはあくまでも王として上から目線で命じるが……
「先程までは話も聞かずに拒んでいながら、今度は護衛につけとはどういう風の吹き回しだ……?それにカルデア、と言ったな。何処でその名を……?」
「先程までいた者に教わってな。最初は粛清騎士共々拒んでやるつもりでいたが、旅の楽士の一曲を聴いて、話に耳を傾けてやるのも一興かと思ってな」
どうやら、ここでもカルデアを知るサーヴァントが現れていたらしい。誰なのかは知らないが、フェリーペ達は説明の手間が省けた事にひとまず感謝した。
「王よ、御報告が。」「王城に向けて複数の部隊が進行中、恐らくは粛清騎士の手勢かと。」「また敵方に“円卓の騎士”を三騎確認。」
影の軍団のうちの数人が索敵から帰還し、敵襲の報せ告げた。
「なっ!?いきなり三騎もだと!?」
「功を焦ったか……,或いはこの場に敵勢力が集まる機会を伺っていたのか……。どちらにせよ、こちらとしては格好の機会だ。シャルルを護るがいいカルデアのマスター。未だ頼りないがこの王は仏蘭西(ワタシ)に必要な存在だ」
「あぁ、任せてくれ」
「ホントーに任せて大丈夫なんだよな!?」
「えぇ、あなたはわたしが護って見せます。」
「ん、あぁ……期待して、るぞ」
エウラリアの返した慈愛の微笑みにシャルルは若干動揺したようだった。
敵兵は通常の粛清騎士に加えて、先程邂逅した混成部隊、更に様相の異なる鉄の鎧を纏った騎乗兵達によって構成されていた。
更にそれを率いる三騎のサーヴァント達。
キールタとトマスは騎乗兵達を率いる首なしのサーヴァントと会敵する。
「この時代のモノではない馬を駆る鎧の騎兵に首を無くした将……国王殺.しのクロムウェルか」
「なるほど、どうやら彼奴等は本気で太陽王とシャルルを潰すつもりらしいな……」
迫り来る鉄騎兵達を斬り捨てるキールタ。仮にも神秘の時代を生きた騎士は近代の兵士に遅れをとることは無い。
「この程度の手勢、ガヴラの戦いに比べれば大したものではない。」
「キールタ、見よクロムウェルの姿が……」
「───────(私の首は何処だ)!!」
自軍を殲滅されたクロムウェルは頭部を失っているにも関わらず、咆哮を上げ、宝具『森羅の頂に座す獣(ベヒモス)』によってその姿を巨大な神獣へと変貌させる。
「よもや、このような怪物に成ろうとは……伝え聞くタラスクにも劣らぬ異様よ」
「確かに驚嘆に値する暴威だ。しかし、兵力を捨て、獣となったのは失策だったな国王殺.し!私は英雄、魔物の類に対抗するすべも持ち合わせている!宝具解放──『驀地の石菖(ヨンダァー・ティーフ)』!!」
それは魔猪を討伐した獣殺.しの一斬、対象を必ず仕留めるという執念の極地。
「───────!」
強大なる獣(ベヒモス)の霊核をキールタの剣が貫き、呻き声を上げながらクロムウェルは消滅した。
一方で太陽王ルイを伴ったエウラリアは苦戦していた。
目の前に現れた円卓の騎士……騎士というよりかはむしろ魔術師(マーリン)か魔女(モルガン)に近いであろう女の魔術が的確にエウラリアを傷つけていた。
「一つ一つが対魔力ですら防げない高威力の魔術……だなんて」
「そうでしょうとも。私の魔術は女性にはより効きますもの。加えて、彼女から頂いた罪行(ギフト)の力によって幼き者にほど効果は増す。見たところ13歳といったところの貴女ならばより響くでしょう」
「随分と得意げに話すな異端の魔女よ。貴様の成した罪、そしてその顛末を忘れたか?ラ・ヴォワザンよ」
「いえ、忘れられるはずないでしょう。ルイ十四世──私達を焼いた王様。」
キャスター:カトリーヌ・モンヴォワザン。フランスにて悪名を上げた魔女。
奇しくも、ルイ=デュードネの時代の魔術師であり、彼の寵姫を惑わせた因縁の相手である。
「二対一だが、悪く思うな。貴様の厄介さは身に染みている。手加減は出来ぬ。」
「生前は国を上げて魔女(わたしたち)を捕らえた者が何を言いますか。そこの若き聖女と共に惑わしてさしあげましょう」
昏き魔力が周囲を覆う、対するルイはその異名に違わぬ太陽の如き魔力を解き放った。
如何にエウラリアに対する優位性があれど、キャスターの身でセイバー・ランサー二騎を相手にするのは無謀だったか、ヴォワザンは追い詰められる……しかし
「感謝するわ、ルイ=デュードネ。私を“魔女”として焼いてくれて、私の憎悪を呼び覚ましてくれて。お陰で私は魔女になれる……『灰と散るは愚かな女、かくして魔女は受胎せり(ラ・ヴォワザン)』!」
魔女が灰となって朽ちる──それと同時に彼女の裡の悪魔が堕胎した。
「これが、ヴォワザンの宝具……。」
そのおぞましき悪魔の姿にエウラリア達が一瞬怯む。その隙をついて『呪煤灰の悪魔』は己が異能を発現した。
「気をつけろ、奴の灰は我等の身を焼く呪詛の類だ……なにより」
「ここは、貴方(フランス)ではない。でしょう?」
悪魔の異能は周囲の異界化。フランスという領域において最強の力を振るっていた太陽王も悪魔の世界ではその補正を失ってしまう。
たが、そうなってなお、この悪魔を祖国(フランス)に解き放ちはしまいと太陽王は吼える。
「この世に地獄が顕現しようとも、我(ワタシ)がいる限り、仏蘭西(フランス)は此処にあり!女の願い、民の憎悪になった魔女(あくま)よ。若き聖女よ。汝らに我が宝具を拝謁する権利をやろう。」
「民の歓び、国家の歩み──今、連なりて太陽となる。可能性の光は今、我に収斂する『王威を示せ、遍く世を照らす陽光の剣(ジュワユーズ・グラン・シエクル)』! 」
可能性の光が悪魔を穿つ。
「度し難い……。私(あくま)も貴方(たいよう)も人の身勝手な祈り/呪いの産物だと言うのに」
「かもしれぬな。我々の本質は同じ。であるが故に背中合わせ。我(フランス)は貴様を理解できない。これは二度目の身勝手な排斥だ。悪く思え」
魔女/悪魔の肉体が朽ちて逝く。
王は魔女を理解せず、魔女もまた王を拒む。さながら相容れぬ朝と夜。
これもまた、同じ時代を生きた英霊同士の在り方だった。
太陽王達から少し離れた場所でフェリーペとメンテーはミケランジェロと影の軍団を伴って、敵陣を相手取った。
「露払いは任されよ。ニンジャの誇りにかけて、貴公らを陰ながら支援しよう」
影の軍団の忍術が敵陣を撹乱し、ミケランジェロが強化に努め、メンテーがシールドバッシュで吹き飛ばす。
「センパイ!この前の混成兵だ!気をつけてくれ!」
「ぐっ……大丈夫だ。このまま、守りきって見せ──ッ!?」
……王家に死を。彼女に自由を。
メンテーの応答を描き消すかのように声が聞こえる。それは地から響くような声であった。
「馬鹿な!?雑兵達が、強く……!?」
その声に応じる形で混成部隊や粛清騎士達の能力が向上している。
「そんな、まさか……あれは……」
メンテーはその声を知っている。忘れるはずもない。その声はかつて自身に語りかけ、今なお自身に力を貸す者の声。
霧が晴れるかのように、目の前の英霊と自身の内側の亡霊の真名が脳裏に浮かび上がる。
「…………マクシミリアン、ロベスピエール」
フランス革命の首謀者にして恐怖政治を行った者。粛清の末に自身も断頭台に送られた革命家。極刑円卓の筆頭がカルデアの前に立ちはだかった。
「センパイ!大丈夫か!?しっかりしろ!」
ロベスピエールの登場によって動揺するメンテーを支えながら、フェリーペが叫ぶ。
「……嗚呼、すべてに、あらゆるすべてに、粛清と死を!」
ロベスピエールの声に応じて混成部隊──『混合旅団(アマルガム)』が一気呵成に責め立てる。
『粛清』。その罪行を召喚者から与えられたロベスピエールはただ王家に死を、民に恐怖をもたらすテロリストの祖そのものであった。
「このままじゃ……不味い」
メンテーは行動不能、影の軍団も押され始めた状態でフェリーペは恐怖に呑まれかける。が、その時
「Ledies&Gentleman!! Boys&Girl!!」
ギュイイーンという雷の如き音が響き渡る。一瞬にして恐怖によって染められた戦場が塗り替えられる。
皆の視線がその音に、ギターを持って立つリーゼント姿の男へと向けられる。
「遠き過去の先達よ、遥か彼方から来た放浪人よ。俺は君達のように戦う力も武器も持たない。だが、代わりにいい音楽は提供出来る!こいつでこの場は収めてくれないか?」
言っていることはめちゃくちゃだ。戦をただの娯楽で終わらせようとしているのだ。それは自己満足と否定する者も現れるはずだ。
だというのに、戦場に似つかわしくないその演奏姿に敵味方問わず惹き込まれてしまっていた。
やがて、ロベスピエールが声を上げる。
「進軍を中止する。彼女の元へと帰還する。」
その言葉に粛清騎士達は抗議するも、ロベスピエールはそれを受け入れずに撤退の準備をした。
「奴相手に我が扇動は無効化される。既に『極刑円卓』が二騎落とされた。深追いはしない。革命は来たるべき日に必ず訪れる。」
そう捨て台詞を吐いてロベスピエールは消えていった。
フェリーペは戦場に突如として現れたアーティストを呆然と眺めていた。
「申し遅れたな。俺はアーチャーのサーヴァント。エルヴィス・プレスリー、ちょっとした野暮用でこのフランスを訪れた、一人のロッカーだ」
「エルヴィス、プレスリー!?」
自身すら知っているロックンロールの原点たる音楽家の登場にフェリーペは目を丸くした。
どうやら、王城に行く際にシャルルにカルデアとの協力を提案した楽士、というのもエルヴィスのことらしかった。
『エルヴィス・プレスリーだぁ!?なんでそんな奴がサーヴァントに、しかもアーチャーだと!?』
アメリカに関してはやたらと詳しいナウマンもまた仰天していた。
『っていうか、おい!この霊基の反応は冠(グラ──』
「無粋なこと言わぬが花ってやつさ、技師さん。」
ナウマンが何やら言おうとしたところで、エルヴィスの演奏がそれを掻き消した。
「とにかく、そう長居は出来ないが……一時ばかし君達に俺の音楽を提供させてもらうよ?いいかな?」
伝説のロッカーを味方につけたカルデアだったが……。
「メンテーさん、大丈夫でしょうか」
エウラリアが心配そうに伺う。メンテーはロベスピエールとの対立に対して思うところがあるようであった。
無理もない、自身やマスターを守ってきてくれた者と同じ存在が、人理消却に加担しているのだ。ショックは大きいだろう。
そんなメンテーにエルヴィスが駆け寄っていく。
「メンテー、と言ったか?与えられた力の本質を知り、どうしていいか分からなくなった。そんなところかい?」
「アンタは……」
「俺もさ、実を言うとこの音楽(チカラ)は人から貰ったモノだった。銃を強請る俺に母さんが楽器を買ってくれてね。それに俺の師は黒人だった。俺はその音楽を取り入れた。」
「でも、俺は確信してることがある。母さんは俺がここまでの音楽家になるとは思ってなかっただろうし、師の音楽だけでは俺のスタイルには辿り着かなかった。与えられたモノであっても、それを持って駆けた旅路は確かにそれに意味を与えてくれるのさ。君はどうだい?」
「旅路が……意味を……。」
「ここからは俺ではなく、君のマスターの出番だろうね。」
エルヴィスがフェリーペの背を押し、メンテーに突き出した。
「センパイ、俺は……最初の特異点の時もその後も、ここに来てからもセンパイに救われてきた。それはセンパイが盾を振るう力を持ってたからだけど、きっとそれだけじゃない。俺は……メンテー・プルトランプに救われたんだ。だから胸を張ってくれ」
フェリーペの言葉にメンテーは奮い立つ。
「後輩に、ここまで言われて立ち上がれなかったら先輩失格だな……。情けないところを見せたな後輩。敵が私の中の英雄と同じ存在だろうと、構うもんか。たとえ私の力が借り物でも、紛い物でも私と後輩の旅路を本物なんかに否定されてたまるか!」
一度は折れた盾の少女は再度立ち上がり、より強固にその心を保つ。
「今まで守ってきたモノか……少し、羨ましいですね……」
メンテーの様を眺めながら、エウラリアはボソッと呟いた。
「先程の戦いから時間も経っていないというのに悪いんだが、どうやら村や街に対して襲撃を与えるサーヴァントが現れたらしい。その襲撃を止めて欲しい」
持ち直したメンテーとフェリーペが玉座の間へいくと、シャルルとルイがそう告げた。
「私は王。王あっての国である故、私は優先的に守られるべきだろう。だが、民なくして国はない。民衆の危機に目を瞑っては王として示しがつかん」
「我(フランス)としても即座に向かいたいところではあるが、先のヴォワザンとの戦闘で既に霊基の2/3を損傷している故にシャルルの護衛で精一杯なのだ。頼まれてくれるか、フェリーペ・ジョージ・デ・サントよ」
サラッととんでもない事実を吐きながら二人の王はフェリーペ達に問いかける。
「もちろん、人々が傷つくと知って放ってはおけません!」
「おぉ、流石は聖女エウラリアだ!よろしく頼むぞ」
シャルルはエウラリアに向けて期待感マシマシで告げる。何処と無くフェリーペ達とは対応に差があるような……。
「もちろん、俺達も行くよ。」
「あぁ、私の盾の名誉挽回の機会だ。」
フェリーペ達の訪れた街にあったのは、隕石でも直撃したかのような、巨大な破壊痕(クレーター)。そしてその付近に佇む槍を持った一人の少女であった。
『敵性サーヴァントの反応を確認……だが、この魔力の出力は……』
ナウマンは冷静に情報を分析していくが、一方のフェリーペ達はただ呆然としていた。
それは目の前の破壊に対してでも、サーヴァントの力に対してのモノでもない。
漆黒の鎧に螺旋を帯びた渦巻く槍、くすんだ灰色の髪、細部こそ違っているがそのサーヴァントの外見は明らかに……
「私……?」
「あら、遅かったわねもう一人の私。」
驚愕するエウラリアの姿をケラケラと嘲笑うその姿は、確かにエウラリアと瓜二つであった。
『気をつけろ!魔力反応からしてソイツは……“聖杯を保有している”!!』
「何、ってことは……!?」
「えぇ、はじめましてカルデアの皆さん。私はサーヴァント、エウラリア〔オルタ〕。民と権力によって処された者を代表して人理を断罪するサーヴァントです」
驚くカルデアの面々に対して、わざとらしく優美に振る舞うエウラリアオルタ。
それに対してエウラリアは咄嗟に否定する。
「私は……そんなことを望んではいません!」
エウラリアが突き出した槍を同様の槍で抑え込むエウラリアオルタ。
「じゃあ、貴女の望みって何かしら?聖人とされた貴女が一体、どれだけ崇高な願いと祈りを掲げているのかしらね?」
「それは……くぅぁ!」
エウラリアが思わず、口を噤む。その隙を突いて、オルタが槍の柄でエウラリアの腹部を叩きつける。
「私は貴女の根底にある怒りであり、怨み……私こそが貴女の願い!」
「そんなわけありません!わたしはただ、誰かを……」
「もう結構よ、悪いけど私の断罪の邪魔をするなら消えてもらうだけだから。十三拘束、強制解放──唸れ『最果てにて(ロンゴ』ッ!?」
エウラリアオルタに魔力が集中し、宝具が解き放たれる……そう思った瞬間、トマスの指先から発射された赤い線がオルタの攻撃を阻害し、そのままオルタを狙う。
オルタは鎧によって防ごうとするも、線は防御を貫通して、オルタの霊核を狙わんとする。それを受けて咄嗟に防御から回避に転じる。
攻撃は回避されてしまったものの、何とか宝具発動を防ぐことが出来た。
「なるほどな、先程の攻防で見えてきたモノがある。聖者を騙る愚者よ……真に貴様が聖エウラリアであるならば、この『聖槍』の能力に咄嗟に察しがつくはずだろう。主の加護を受けた聖人を語りながら 貴様はこの段階になってなお、このトマスの指の正体に気づかなかった。」
疑心の炯眼が黒き甲冑の乙女の看破する。
「バレてしまいましたか……もう少し、彼女の動揺する様が見たかったのですが……」
少女は観念したかのように両手を開いてなお嗤う。
「しかし、愚者と来ましたか……えぇ、そうですとも。私は衆愚の具現。民衆の暴走と権力の横暴によって、13歳にして命を奪われた者。」
「我が真名は『四月の愚者(エイプリル・フール)』!虚実を以て、人理を侵食する呪いである!!」
AD.1564 第陸特異点 虚栄円卓領域 プワソン・ダヴリル 人理定礎:─
- 最終更新:2020-04-01 00:45:49