エルシュタイン’(ダッシュ)

あの胡散臭い演説を聞いてから我がマスターは黙り込んで何やら考え事に耽っている。
何か話しかけても「ちょっと待ってください。今諸々整理中なので」と返され、未だ自己紹介も出来ていない。

セイバー「ふぅ…」

焦ってもしょうがないので私も情報を整理することにした。

我が真名は上杉謙信、クラスはセイバー。歴史上では男性と語られているが私は女性の形を取っている。
対する名も知らぬ我がマスター。自分がコピー体で戦い合わせる為に作られたと聞いてショックを受けているのだろうか、ぶつぶつと呟いたりうんうん唸ったりしている。

そろそろ何か話さないだろうかと切り出そうとした時、やっとマスターが顔を上げた。

マスター「よし、改めてはじめまして。私の名前はエルシュタイン・ラジアナ・カヴァセルリ。問おう、貴女が私のサーヴァントですか?」

セイバー「それ私の台詞ー!!」

一度言ってみたかった台詞を先取りされる形で私達の聖杯戦争は幕を開けた。



エルシュタイン「ふむ…かの上杉謙信が女性だったというのは驚きですがまあ些細なことです」

我がマスター、エルシュタイン・ラジアナ・カヴァセルリはまず互いの性能に関する情報の開示を求めた。そして真名やスキル、宝具等を伝えると早速作戦の立案に取り掛かった。どうやらこの人は私と同類らしい。
しかし私にはその前に聞いておきたいことがあった。

セイバー「マスター、一ついいですか?」

エルシュタイン「何ですか?」

セイバー「貴方は何の為にこの聖杯戦争に臨むのですか?」

先程の悩みようからして余程自分の置かれている状況がショックだったのだろうことは想像出来る。そして気持ちの整理がついたということは聖杯戦争を勝ち抜いて万能の願望器を手に入れようということ。ならばそれに何を望むのだろうか。
コピー体としてではなく確固たる自己の確立。本物との成り代わり。いくつかの候補は浮かぶが本人に確認はしておきたかった。

エルシュタイン「ええ、人類の恒久的平和を」

マスターが微笑みながら口にした願いに私はひどく驚いたものだ。



エルシュタイン「オリジナルと同じ記憶、同じ能力、同じ思考回路を持つコピー体だと言うのなら私は自分自身をエルシュタインの代替品と位置付けます。言わばエルシュタイン’[ダッシュ]です。であればこそ、オリジナルでは手を伸ばさない所までいこうと思います」

そう語る彼の目に迷いは無い。つまり彼は毘沙門天と私のように自身をエルシュタインの化身として割り切ったのだ。成程、私が召喚されるのも納得である。

セイバー「分かりました。この剣にかけて貴方に勝利を」


エルシュタイン「ところで貴女は聖杯に何を望むのですか?」

頭を過ぎったのは自分の死因。一国の長としては少々格好が悪い最期の改竄をとも考えたことはあるがマスターの願いを聞いた後にそれを言うのは少し憚られる。
であればもう一つの、毘沙門天の化身としてではない私自身の願いを口にする。

セイバー「叶うならばもう一度、武田信玄公との戦を願います」

エルシュタイン「分かりました。では優勝して完全平和を成し遂げた時に一度だけ戦の場を設けましょう」

  • 最終更新:2019-01-31 01:12:23

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